前書き

こういう記事がすでにあります

とはいえ、上記の記事は書いてる途中に知ったもので、本記事が当該記事に対するアンサーとかそういうのではありません。たまたま同じような趣味のひとが、けれどもまったく違う視点でヴィジュアル系と世間の偏見に対して向き合った。そういう観点で読み比べてみるとおもしろいかもしれません。それでは本編へどうぞ。

90年代ヴィジュアル系と偏見

90年代はヴィジュアル系が世間様の衆目を集めた奇跡の時代。彼らは、今現在サブカル系ロックバンドが出て欲しくない音楽番組ナンバーワンのMUSIC STATIONにばしばし登場していました。そこで子供たちにトラウマを植え付けて苦情を殺到させたり(DIR EN GREY)、備品をぶっ壊して出禁になったり(PIERROT)、タバコを吸いながら演奏して「サイアク」とうちの母に言わせたりと(ラリクアンドシエル)暴虐の限りを尽くしていました。ちょうどのそのあたりの事件が起こったあたりで世間様は「あ、なんかこいつらコワイしキモイ」と気付いてしまい、ヴィジュアル系はヘビメタと並ぶ迫害対象として認知されました(日本音楽界でその両方を体現してるX JAPANすげえ)

そんな風にして出来上がったヴィジュアル系に対する圏外からの偏見は、キモい化粧男とかそういう暴言を止めていただくと、黒とか薔薇とか髑髏をまとって君との狂おしき愛を嘆くとかいう限りなくお耽美ちゃんな世界観か、あるいはもっとライトで、なんか黒い服着てかっこつけてる人たち、というものになっています。そして当然、ヴィジュアル系は90年代からお茶の間から姿を消しているわけですから、その偏見は今でもあまり変わっていないでしょう。

さて、数年前から90年代ヴィジュアル系が再度盛り上がる動きを見せています。例えば90年代ヴィジュアル系辺りのヒット曲を現代のヴィジュアル系がカバーする『CRUSH!』シリーズの発売。これはカバービジネスの好調と「90年代ヴィジュアル系を再評価しよう」というという動きが合わさった結果だと考えられます。また、往年のヴィジュアル系バンドの再結成やメディア露出も目立ちます。なかでもLUNA SEAの13年ぶりの新作の発売は近年の90年代ヴィジュアル系賛美の最大風量と言ってもよいでしょう。あるいは、因縁の(一部バンドだけ)MUSIC STATIONで見せたYOSHIKIのYOSHIKIでしかないパフォーマンスは、ヴィジュアル系が再びお茶の間にビジュアルショックをもたらす最大の予兆と言えるでしょう。

こうした動きが出てきた背景としては、あの頃必死になってヴィジュアル系を聴いていた世代が、満を持して世の中を動かす年齢になったことが考えられます。とすればしばらくはメディア側での90年代懐古は続くと考えられ、そうなると当然世間様のなかで再度「ヴィジュアル系ってこういうもの」という90年代的偏見が強まることと考えられます。

しかしこれは非常にもったいない。

音楽というのはただ聴いて一面的な“感動”をするだけのものではないのです。時に指差してゲラゲラ笑ったり、不快な思いをしたり、侮蔑の念を送ったり。またあるいはファッションとして身に着けたり、イデオロギーの形成に利用したり。そういうある意味では邪道な“感動”も音楽の素晴らしいところであり、クソなところでもあるのです。そしてそのヨコシマな楽しみ方をするのに、ヴィジュアル界隈ほど適しているジャンルはないと私は考えるのです。

そういう観点で、うちの母親のような一般人はまあ置いといて、そこそこ音楽が好きな人たちが、未だに「再会の血と薔薇(キリッ」という偏見しかもっていないのは損失と言えます。今のヴィジュアル界は音楽面はもちろん、その他面でもいろんなひとたちがおり、既存の偏見を打ち破り、新たな偏見を生み出す力が十二分にあるのです。

というわけでヴィジュアル系歴38年(自称)のバンギャ男がお送りする、「ヴィジュアル系」に対する貴方の偏見をあらぬ方向へ持っていく新世代「ヴィジュアル系ロックバンド」です。どうぞ。

アンティック-珈琲店-~Cool to KAWAII~

お前らどこのポップティーンだよ、というようなキャピズム全開の容姿でポップな曲を元気に演奏。ヴィジュアル系特有の声質も、従来のねっとりといたキメ声から喉をつめたようなネコナデ声になっています。

そう、アンティック-珈琲店-(あんてぃっくかふぇ)。2000年代最大の戦犯です。2000年に結成された彼らはまたたくまに人気を得て、2006年の「NYAPPY in the world」でその名を歴史に刻みました。

明日が不安で見えなくて 自信を失ってる時には
さぁ みんなで唱えよう 奇天Let’sな呪文

てぃ羅魅酢 ニャッピーo(≧∀≦)o 鳩
鳩 ニャッピーo(≧∀≦)o てぃ羅魅酢

筆者注:
てぃ羅魅酢=てぃらみす
ニャッピーo(≧∀≦)o=にゃっぴー(顔文字は発音しない)
鳩=ぽっぽ

この歌詞が大空に浮かべた思い出の中で踊る二人を見つめ泣いていた人たちの逆鱗に触れることは想像に難くありません。音楽、歌詞、見た目その全てにおいて、従来のクールで黒で薔薇で骸骨なイメージを一切拝してなんかもうキュートでピンクできらきらでネコになったという点で、彼らは革命であったのです。

ちなみにこういうヴィジュアル系はオサレ系と呼ばれています。バロックが始祖と言われています。

バロック – たとえば君と僕

謎のエロさ。

YOHIO~海を越えたkawaii~

上記映像には映っていませんが、アンティック-珈琲店-には坊というギタリストがいました。彼はプロモで女子高生の格好をしたりするいわゆる女形で、そのあまりのカワイイが同バンドの人気を支えていた部分もあるでしょう。

そう、ヴィジュアル系といえば女形の存在です。女形と言えば、90年代を知るひとであればIZAMの印象が強いでしょうか。もう少し詳しいひとならMana様を挙げるところでしょう。90年代ヴィジュアル系の女形メンバーは、そのゴシック要素の強さから、耽美を極めた結果の女性性獲得といった風情でした。一方でIZAMはその雰囲気がなく、単純に女装という側面が強かった。そのカジュアルな女形に、近年の化粧技術の向上と若手特有のチャラさがあわさって、前述のアンティック-珈琲店-に続くカワイイを重視したバンドたちが「かわいいから」とか「おもしろいから」とか「いやなんとなくノリで」とか、そういう雰囲気で女形をやるようになった。ゴシカルな、空想上の美として存在していたヴィジュアル系の女性性が、カジュアルなその辺の高校生レベルにまで繰り下がっている。すなわち女形内での新ジャンル“男の娘”が確立されたのです。


※右の子にはチンコ生えてます。

そうした気軽な女装が世界に輸出されているニッポンのkawaiiという概念と結びつき、遠くスウェーデンの地で生まれた女装男子。それがYOHIOです(埋め込み無効なのでリンク先をご覧ください)

1995年生まれの彼に関してはこちらのインタビューが詳しいです。かいつまんで抜き出すと以下のような感じ。

  • (ヴィジュアル系を最初に聴いたとき)たぶん“サムライ”を初めて知ったときと同じような感覚だった
  • 「どういう人たちなんだろう」って見てみたら「あ、女の子なんだ」って。実はそれは男の子ってわかったときは本当にビックリした(笑)。
  • 子供の頃からしょっちゅう女の子に間違われていてそれがコンプレックスだったりもしたんだけど、アンカフェ(筆者註:アンティック-珈琲店-のこと)の元ギタリストの坊くんが女の子の格好をしていて、それを見たときに「僕にもできるかも、これが僕の居場所なのかもしれない」って思って。

そんな彼は『REACH the SKY』で日本デビューを果たしています。上記の曲はその中の「SKY☆LiMiT」です。ポップな曲調に突如ヘヴィなパートやシャウト、テクニカルフレーズをねじ込んでくる辺り、現代のヴィジュアル系の流行を組んでいて見事です。とはいえ別のインタビューでは本格派メタルヴィジュアルバンド“薔薇の末裔”ことVERSAILLESを<最も尊敬している>と語っているあたり、お耽美な感性も持っているようです。

Versailles – “Philia”

活動休止しちゃったょ……

また、インタビューにも出てきますが、彼はSEREMEDYというバンドのギタリストもしています。SEREMEDYは2011年にV-Rock Festivalで来日を果たしています。スウェーデンというとARCH ENEMYMARDUKなど、日本でも人気のメタルバンドを数多く輩出していますが、海外ヴィジュアルロックの中心地にもなって欲しいところです。

Seremedy – NO ESCAPE (OFFICIAL PV)

ベースのキラめく瞳……

そういえばヴィジュアル業界ではご察しの通りBL妄想も盛んですが、こういう人たちはどう扱われるんでしょうか。私、気になります。

仙台貨物

ヴィジュアル系は美しき男性メンバーが主体ということもあり時に“ヴィジュアルゲイ”と揶揄されることがありますが、そのゲイズムを逆手に取るとかそういうの無視してひたすら悪ふざけをしているバンドがこの仙台貨物です。まずボーカルのイガグリ千葉の見た目でマジメなロックファンは顔を引きつらせるでしょうし、そのサウンドの軽さや下ネタでしかない歌詞の下劣さは二度と回復できぬ悪印象を与えるでしょう。でもちょっと待ってください。このバンドはNIGHTMAREというバンドの別名義(非公式見解)で、そちらではLUNA SEA直系の本格黒服ヴィジュアル系をやっています。

NIGHTMARE / SLEEPER

おもしろいのは、彼らは単独でバンドとして成り立っているところです。確かにNIGHTMAREありきのバンドではあるけれども、単独で何度もライブをやっていますし、フルアルバムも2枚も出しています。大御所の下手なプロジェクトよりよっぽど長持ちしています。全く違う音楽性のバンドを掛け持ちして、その二つで武道館公演を成功させ、ファンを熱狂させることができるロックバンドなんて他にいるでしょうか。もちろんこれにはバンギャルがバンドではなく人単位で音楽に接しがちなことなんかも関係していると思われますが、それ含めてその存在を考えていきたいバンドです。

仙台貨物だけであれば単なるコミックバンドで、氣志團やゴールデンボンバーと同列に語られるような存在です。でもそこにNIGHTMAREという音楽的基盤が加わることで、独自の立ち位置を築いている。あえて大げさに言いますが、彼らはヴィジュアル系が起こしたひとつの奇跡でしょう。

ちなみに昨年レディー・ガガがMUSIC STATIONに登場したとき、きゃりーぱみゅぱみゅをパロった格好をしたと話題になりましたが、あれ、実は仙台貨物の千葉から着想を得たメイクなんですよ。

Mix Speaker’s,Inc.~2.5次元~

ここまで出てきたひとたちは性別がややこしいことになってはいたものの人間ではありました。しかしヴィジュアル界にはヴィジュアルを突き詰めて非人間化してしまったバンドがいます。それが奇才の創作・表現者集団Mix Speaker’s,Inc.です。

百歩譲って顔が三つあるドラマーまでは許すとしても、なんかベーシストでかすぎだしおめーは楽器を弾け。そんなロックな人たちからのお叱りの声が聴こえてきそうですが、ライブではちゃんと演奏してるようなので安心してください。

ボーカル二人がフリツケをするのも特徴のひとつです。このフリツケはPIERROTが採用したあたりから増えてきた演出で、ライブでは会場全体が一体となって行います。視覚的・演劇的要素の強い彼らにあってはその効果は倍増でしょう。非日常としてのライブ会場において、非人間のバンド演奏を聴きながら一緒に手足を動かすことで、自らがファンタジー世界の住民であるかのような錯覚を覚える……。息苦しい毎日を過ごしている多感な若女がハマらないワケがありましょうか!逃避!(なお、蟹めんま氏のマンガに詳しいですが、一部バンドのヴィジュアル系ファンはハードコアキッズ顔負けの暴れっぷりを発揮するようです)

実はヴィジュアル系以外でも非人間化するバンドはいて、その中でもいくつかのバンドは一定の評価を受けています。日本ではMAN WITH A MISSIONが近年目覚しい躍進を遂げていますね。海外ではGHOST B.C.というバンドがイギリスのガーディアン誌が行った2013年のベストアルバム10選に選ばれています。

GHOST @ Graspop 2013 [Pro-shot live songs]

ルッシッファァ—ン(ここでタライが落ちる)

我々は、たとえ相手がゲイであろうとフタナリであろうと、狼男であろうとゾンビであろうと、広い心でその世界を受け入れていかなければならない。そういう時代になったのかもしれません。

あと人気があるかどうか関係なく個人的な好みで先日まさかの来日を果たしたPORTALさん置いておきますね。

PORTAL – Glumurphonel

楽しい!!
✌(‘ω’✌ )三✌(‘ω’)✌三( ✌’ω’)✌

読めないバンドたち

ヴィジュアル系にはバンド名が懲りすぎてて読めないひとたちが良くいます。種類としては大きく分けて二つ。外国語系と当て字系です。90年代はDue’le quartz、Moi dix Moisなど外国語系が主流でしたが、近年はアンティック-珈琲店-やアリス九號.(ありすないん)などの当て字系が台頭しています。それではいくつかクイズ形式にして見ていきましょう。

第1問 己龍
まずは小手調べ。

 正解は「きりゅう」でした。私は「おつりゅう」だと思ってました。己ってキって読むんすね……。というかおつりゅうはそもそも漢字が違う。
 
第2問 彩冷える
 一般人正答率2%の難問。

正解は「あやびえ」でした。“る”どこ行った“る”!

第3問 お遊戯ゎが魔々団×【PaRADEiS】
初見では正解不可能です。

正解は「ぱれーど」でした。大胆!なお、彼らは途中でParadeis(それでも読めない)だけになって、現在は惜しくも解散してしまっています。

こうした日本語当て字系バンドはメジャーデビューするにあたって事務所の修正が入って英語表記にされることが多いです。アリス九號.はALICE NINEに、彩冷えるはAYABIEになりました。これは海外進出を考えてのことだと思われます(ただしAYABIEは事情が複雑)。当て字より読みやすくて安心だね!ただしその逆の場合もあって、2000年代ネオヴィジュアル系を代表するバンドのガゼットなんかはthe GazettEと逆に読めなくなってしまいました。

the GazettE『THE SUICIDE CIRCUS』

この読めないバンド名はヴィジュアル系だけの風潮ではありません。□□□(くちろろ)や8otto(おっとー)など邦楽ロックバンドでも見受けられる現象です。OOIOOなんかはOIOIと並んで上京してきた地方人を惑わせる一級戦犯として君臨しています。海外でも██████…?など挙げていけばキリがありません。別途特集を組んでもいいくらいです。

10代女子から金をむしる

CDにオマケがつくのが当たり前になった昨今ですが、AKB48よりも先にヴィジュアル系はオマケ商法をやっていました。さらには差分商法もお手の物。初回盤と通常盤は当たり前で、そこに限定盤という謎の盤が増えたり、ジャケットを変えてType-Aつって3種類くらいだしたり、カップリングを変えたり、曲順を変えたり、応募券をつけたり、トレーディングカードをつけたり、ボストンバッグの中に入れたり、オルゴールを入れたり、もう思いつく限りの差分商法、オマケ商法を繰り広げています。

そんな中で今回紹介したいのはCalled≠Plan 『L』『R』 です。動画の中でその仕様が流れるのでご覧ください。

Called≠Plan 『L』『R』 PVスポット

  • 2タイトル同時発売
  • 各タイトル3バージョンずつで、違いは3曲目
  • 各タイトルごとにトレーディングカード(全5種類)が1枚封入

単純に全タイトル買うだけでも1890円2枚、1575円4枚で10080円。トレーディングカードを全種類揃えようとするとさらに最低4枚買わないとならないから6380円増えて総額16380円。トレーディングカードが揃わなければさらに1575円ずつ出さなければならない……そぅ……これはもぅ……CDとぃぅ名のガチャ……。

主たるリスナーが10代20代の女子だと考えると、これはとてもエグイです。グッズをたくさん集めてファンとして上位になりたい。バンドマンに近づきたい。ステージ上の彼に近づけば、それだけ私は特別な存在になれるんだ……。そうした彼女たちの想いが少しでも報われることをただただ祈るばかりです。

浮気者~そして次のステージへ~

ついにヴィジュアル系もここまで行き着きました。もはやバンドですらなく、女をはべらせて踊りまくっております。私、ピコスクリーモをこじらせていきなり激チャララップコアになってYoutubeでグッドバッド比率脅威の6:4(1月3日現在)をたたき出したFALLING IN REVERSEを思い出しました。

Falling In Reverse – “Alone”

激チャラ。

この浮気物というユニットはSuGというバンドのボーカル武瑠のソロプロジェクトです。インタビューによると、名前の通り浮気物は<企画性を持ったサイドプロジェクト>で、だからSuGでもできるバンド形態ではないとのこと

ヴィジュアル系ってこういうチャラい方向とは思想的な相性が悪いと思うんですが、彼はそういう枠を飛び越えて活動をしています。そういう態度がロキノン系アーティストやボーカロイドPの心を捉えたのか、浮気物ではゆよゆっぺ、たむらぱん0.8秒と衝撃。、Plus-Tech Squeeze Boxなどとコラボしているようです。びっくり。

彼の活動は音楽だけにとどまらず、million $ orchestraといったファッションブランドもプロデュースしているようです。何やら創作意欲の塊のような人だと見受けられますが、その創作意欲をもとにヴィジュアル系とロキノン系、ボーカロイド界、オラオラ系という全く相容れない要素にどんどん橋を渡していって欲しいところです。

後書き

どうでしたでしょうか。とりあえず90年代からヴィジュアル系にも色々起こっていて、色んなひとたちが出てきていることだけは伝わったと思います。何か得体の知れないものが生まれる予感があるけれど同時に閉塞感も漂うヴィジュアル系の価値観。それを堅実に守っていくも良し。塗り替えていくも良し。方向は違えどその信念と美学が素晴らしい作品を生み出すと、愚直ではあるけれど、私は信じているのです。

投稿日:2014年01月03日