基本的な流れ

1. 主観的な感想へ列記する

これがないと話になりません。これを元にして文章を膨らませていきます。主観的な感想は自分の記事の個性にもなります。とはいえ取っかかりとしての意味がおおきいので、とりあえず「リフがかっこいい」とか「軽い疾走感が好き」とか「前作よりよい」とかそんなんでかまいません。

この主観的な感想を膨らませるために、以下のことを行います。

2. 基本情報を確認する

ひとつの音楽作品にはたくさんの人や物が関わっています。その人や物の数だけ語り口があります。音や詞だけではなく、作詞者や作曲者、編曲者、演奏者、楽器や機材、コンセプトなどをまずは調べてみましょう。この情報を元に、自分の主観的な感想がどういった部分から感じ取ったものなのかを探ります。なぜ「リフがかっこいい」のか、たとえばメンバーチェンジ、たとえば楽器の種類、たとえばツアーをまわったバンドからの影響、などなど。感想と具体的な事柄を結びつけることで説得力が増します。

3. 比較する

単体で評価するよりも、何かと比較したほうがわかりやすいです。語り口に幅もでて、説得力も増します。基本情報をもとにして、他の作品との具体的な差を書きましょう。そして、その差が自分の主観的な感想のどの部分に関係しているかに繋げます。

これを一通り繰り返すと結構な文章量になります。流れとしては「”基本情報”なので”感想”」と「”基本情報1″で”基本情報2″なので”感想”」の2パターンです。膨らんだ感想を基本情報として扱いさらに膨らませるという方法もあります。

4. 改めて作品と向き合う

以上のことを行ったあとで再度作品と向き合いましょう。レビュー記事執筆を通して、より深く作品を知れたことがわかるんじゃないかとおもいます。場合によっては全文書き直しという事態にもなるかもしれませんが、それはそれで良い体験だとおもいます。

それではこの4点をふまえたレビュー製作の実際の流れを、HIGH ON FIRE『De Vermis Mysteriis』を例に具体的に見てみましょう。

著者の紹介

ランギラス君は今年19歳の大学生。HIGH ON FIRE『De Vermis Mysteriis』を聴き、いたく感動しました。いろんなひとにこの感動を伝えたい!とレビューを書くことにしました。ただレビューを書くのは初めてです。なんとなく書きあがったのはこんな感じ。

HIGH ON FIREの新譜届いた。 プロデューサーがCONVERGEらしいので聴いてみた。 前作はうわさの割にまともなメタルでそんなに好きじゃなかったけど、 今回は荒々しくてかっこよかった!

これではちょっと物足りないですね。このランギラス君の文章を元に、それなりに見ごたえのあるレビューを完成させましょう。

前提条件としてランギラス君は、

  • HIGH ON FIREは前作だけ聴いたことがある。
  • 元SLEEPのひとがやってることは知っているが、SLEEPは「なんかなげー曲やっててそのスジでは有名」くらいの知識。
  • CONVERGEは代表作『Jane Doe』と最新作(当時)『Axe to Fall』だけ聴いたことがある。「暴力的でかっこよい」という印象。
  • 英語は中学~高校レベル。

ということにしておきましょう。最低限の情報は持っているけれども、それほど知識があるわけではない状態です。

主観的な感想を列記する

とりあえずランギラス君のおもいついたままに書いていきます。

  • ドラムが荒々しくてかっこよい。
  • 疾走パートが減ってヘヴィな雰囲気になった。
  • 暴力的でかっこよい。
  • 前作より良い。

以上です。この4つを膨らませていきます。とりあえず紙にでも書いてキーボードの横に置いておきましょう。

基本情報を確認する

HIGH ON FIREについて調べましょう。使うのは主にWikipediaです。まず日本語版Wikipediaで調べて、情報が足りなかったら英語版を読めばいいでしょう、英語は人名やジャンルが読める程度であればなんとかなります。リンクが貼ってある文字列だけ見れば大丈夫。もちろん、英語が読めるのであれば最初から英語版でも問題ありませんし、Googleでいろいろなサイトを巡っても構いません。

参考までにWikipedia以外でよく使うサイトをのせておきます。

  • Discogs: ジャンル問わず。リリース情報に特化。
  • Encyclopedia Metallum: メタルならなんでもござれ。なぜか初音ミクものっている。

す、すくねぇ…。Wikipediaが万能すぎる…。とはいえWikipediaの信頼度があやふやなので、こんなサイトもあるよーって方、ぜひ教えてください。

ランギラス君は英語が得意ではないのでひとまずWikipedia日本語版で調べてみましたが、HIGH ON FIREの項目がありません。仕方がないので英語版で調べます。

HIGH ON FIRE - MA

英語版Wikipedia「HIGH ON FIRE」の項目(画像は2012年11月時点のもの)

赤でかこった部分に着目。大体以下のようなことが書いてあります。

  • Origin:出身国。
  • Genres:ジャンル。個々の作品の項目を参照にしたほうがよい。
  • Year active:活動時期。
  • Labels:レコード会社。
  • Associated acts:関連バンド。過去にメンバーが在籍していたり、ツアーを一緒に行ったり、親交があるバンドと捉えてよい。
  • Website:公式ウェブサイト。
  • Members, Past Members:現メンバーと過去のメンバー。項目下部に、Line-upという形でさらに詳しい情報があることも。

上から順に見ていきましょう。彼らはカリフォルニア州のストーナーメタルバンドだということがわかります。カリフォルニア出身バンドの音楽性に知見があれば比較したいところですが、ランギラス君はいままで出身州を意識したことがなく、語る知識を持っていないので今回は見送ります。ただし、このバンドがカリフォルニア発だということは次回のために覚えておきます。

活動時期は1998年から。activeなので活動中ですね。メンバーは3人。あの音圧を3人で演出しているのか!と驚きます。こういう驚きもレビュー記事にいれられるのであればいれます。メンバーが変わっているようですが、いまいちわからないのでEncyclopedia Metallumを見てみましょう。

HIGH ON FIREと…

HIGH ON FIRE - MA

Membersのタブを開きます。

HIGH ON FIRE - member

Matt PikeのところにSLEEPと書いてあるので、元SLEEPなのはMatt Pikeというひとだな、というところを読み取ります。また、2006年から、作品でいうと『Death Is This Communion』から現編成のようです。他にもいろいろ情報が読み取れますが、ひとまずここまでにしておきましょう。

Wikipedia英語版のHIGH ON FIREの項目に戻ります。下部のDiscographyを見ます。

HIGH ON FIRE - discography

本作は7番目に書いてありますが、ひとつ「Live」という文字があるので、スタジオ盤としては6枚目だな、と推察します。これだけアルバムを出しているならば、もうSLEEPと比較しなくても大丈夫だな、おれあんまり知らないし、と考えます。また、このバンドは2~3年ごとに定期的にアルバムを出していることがわかります。これが5年に一度だったりすれば「待ちに待った」などの文句が映えます。

では、『De Vermis Mysteriis』の項目に行きます。

HIGH ON FIRE - discography

ここではまた右の赤丸部分に着目します。アートワーク、発売日、ジャンル、演奏時間、レーベル、プロデューサーが書いてあります。作品によってはレコード期間なんかも書いてあります。これら全てが批評を書く材料になります。

アートワークは重要です。音楽という聴覚情報に視覚情報を付与してくれるわけですから。批評の表現に行き詰ったらここから印象を拝借するのが常套手段です。発売日は正直語るのが難しい要素ですが、おなじ日に発売された作品と結びつけたりできます。ジャンルは、同じジャンル内のバンドと比較しながら特長を語るとよいでしょう。慣れてきたら多少離れたジャンルとの共通点などをあげるとプロっぽいです。レーベルは、移籍直後の作品ならば是非話題にしたいところです。レーベルの特徴と変化、所属しているほかのミュージシャンなど、話題はつきません。最後にプロデューサーですが、これは有名なひとの際に言及すればよいでしょう。あるいはそのプロデューサーの項目を見てみて、知っている作品をプロデュースしているようであれば話題にしてもよいですね。

さて、『De Vermis Mysteriis』の発売日は2012年4月3日。これはランギラス君のお母さんの誕生日です。こういうちょっとしたネタを文章に仕込む技術もあればよいです。ストーナーメタルについてはあまり詳しくないのでジャンルで語るのは止します。レーベルはDiscographyで確認した限り前作とおなじところなので、そう話題にする必要もないですが、ひとまずリンクがあるので飛んでみます。適当に目を動かしてみると、Pokemonという単語がありました。ランギラス君はポケモン狂なのでなんとかしてネタとして組み込みたいところですが、それをやると記事全体がネタくさくなってしまうので、ちゃんと褒めたい今回は見送ります。

プロデューサーはCONVERGEということは知っていましたが、ギタリストのKurt Ballouということはここで初めて知ります。リンク先に飛んでみますが、英語ばかりで頭が痛いのですぐ閉じます。「CONVERGEのギタリスト」だけでも話題性十分なので問題ありません。さすがのランギラス君でもCONVERGEとHIGH ON FIREのジャンルが違うことはわかりますし、元SLEEPとCONVERGEという組み合わせは話題十分なこともわかります。

最後にアルバムジャケットを見てみましょう。

   HIGH ON FIRE - De Vermis Mysteriis cover 

ジーザスな感じのひとがジーザスなかんじで目から目のビームを出してさらにエクトプラズムしています。よく見ると手から血が流れています。あとなんか右上に獣がいます。まったく意味はわかりませんが、何か意味深い絵です。あとなんか苦しそうです。ふとWikipediaの左ほうに目をうつすと「Theme」とでかでかと書いてあります。気になったので翻訳にかけてみることにしました。翻訳は翻訳比較くんを使います。Yahoo!翻訳とExcite翻訳を使えばあとのサイトは誤差です。

私は、イエス・キリストと処女懐胎に関するこの考えを思いつきました: 万が一イエスが誕生の時死んだ一対のうちの一方にイエスに生活を与えさせたらどうしますか。 また、その後、万が一一対の人がそのときちょうど時間旅行者になったら、どうしますか。(中略)それはその古いテレビ番組大飛躍にまあ似ています。 私が彼にその考えを伝えた後、カートは実際に私にそれを指摘しました。 しかし、何でもタイムトラベルは無敵概念です。(Excite翻訳文)

Yahoo!翻訳で「死んだ一対」は双子だということがわかります。なるほどイエスが双子で、片方が死んだけどなぜか時間旅行者になるというテーマがあるようです。それで、カートに「なんか古いテレビ番組みたいに大げさだ」と言われたものの本人は自身満々ということがわかりました。これは良い材料になりそうです。

ここまででひとまずまとめてみましょう。

元SLEEPのMatt Pike率いるストーナーメタルバンド、HIGH ON FIREの最新作『De Vermis Mysteriis』が届いた。今作はあのCONVERGEのKurt Ballouがプロデュースを勤めている。CONVERGEといえば2009年の『Axe to Fall』が相変わらず暴力的で超名作だったし、道は違えど互いにひとつの先鋭的なシーンの形成に関わったもの同士が合間見えるとなれば、胸が躍るのも仕方のないことだろう。

こんなところでしょうか。特に難しい言い回しは使っていませんが、最初と比べればこなれた文章になりました。CONVERGEが関わったという基本情報から、CONVERGEとSLEEPの音楽性の違いという比較に持っていっていき、最後に主観的な意見へつなげています。この「基本情報→比較→主観的意見」のコンボはレビューを書くにあたっての黄金パターンです。なお、さりげなく「おれ、CONVERGE知ってますよ」アピールもいれてあります。また、SLEEPのことはよく知らないくせに「シーンの形成に関わった」などと嘯いております。Googleで適当に調べただけのハッタリですが、こういう一文を入れるとちょっとプロっぽくなるので状況に応じて使ってみても良いでしょう。

また、書き手がどういう音楽的背景・心情で記事を書いているかは、読み手にとって重要な情報ですので逐一入れておきましょう。最初に「このバンドを聴くのは初めてor○○以来」、「楽しみor期待してない」というのをテンプレート化して入れてもよいくらいです。

比較する

主観的な感想をおさらいしておきましょう。

  • ドラムが荒々しくてかっこよい。
  • 疾走パートが減ってヘヴィな雰囲気になった。
  • 暴力的でかっこよい。
  • 前作より良い。

とりあえずドラムに注目する

まず列記した感想の最初の部分に着目します。感想の列記で最初に来た、ということはそれが自分の一番強い印象であると心理学的にいえますたぶん。ランギラス君の例でいえばドラムですね。というわけで今作のドラミングを端的にあらわしている部分を思い出します。『De Vermis Mysteriis』は激しいドラミングから幕を開けます。そうそう、ランギラス君はこのドラミングで失禁したのでした。とりあえず文章にしてみます。

1曲目の「Serums of Liao」から打ちのめされた。Des Kenselの荒々しいドラミングが打ち響く。

これだけではちょっと物足りないので、ひろげていきます。

まず「荒々しい」はやや抽象的なので、具体的事実と結びつけてみましょう。あまり難しく考える必要はありません。ドラムの場合、基本的に音の質と数だけ意識すれば十分です。

荒々しいドラミング:音が太く力がこもっている、手数多め

より詳しく記述したい場合は各部位ごとにこれをやりましょう。たとえばうるさいシンバルを多用、控えめながらライドを効果的に配置、などなど。ドラムセットについては教則DVDを見るとかなり詳しくなれます。ただし専門用語を使いすぎると敷居が高くなるので、基本的にはスネア、シンバル、バスドラ程度にとどめておきましょう。

実際に文章に組み込むかどうかは別として、以上の音の分解をやっておくと抽象的なイメージと具体的なフレーズを結びつける能力がぐんぐんあがっていきます。音楽鑑賞とレビューをする際にも役立ちます。なんだったら作曲するときだって!ともかく、ドラムだけでなく他のパートでもやっておくのがおすすめです。

ちょっと脱線

ここで専門用語の使用についてちょっと補足。専門用語は使えば使うほど記事の敷居があがります。特別言及したい場合、読者層がわかっている場合、それが自分の個性の場合 (バンドをやっていて楽器に詳しいなど) を除いてなるべく避けたほうが無難でしょう。使うにしても、文脈である程度推察できるようにしましょう。たとえば突然「ライドの配置が効果的」と書くとライドを知らないひとは困りますが、「ドラムが○○。特にチーンというライドの配置が効果的」と書けば、「ああ、このチーンっていうのドラムのパーツでライドっていうんだ」となります。読者の勉強にもなる素敵な文章です。

ふたたびドラムに注目する

今回「前作より良い」という感想がありますので、前作のドラミングと比べてみます。全体的に手数が増えているように感じました。これは「疾走パートが減ってヘヴィな雰囲気になった」にも関係しているでしょう。

1曲目の「Serums of Liao」から打ちのめされた。Des Kenselの荒々しいドラミングが打ち響く。前作と比べて疾走パート控えめでミドルテンポ中心の本作だが、それが彼のドラミングの個性をより引き立てている。

前作と今作のテンポとリズムの傾向を比較して、個人的な感想に落とし込んでいます。

ドラムから他のパートへと話を展開する

ドラムに触れたので流れで他のパートにも言及しましょう。

荒々しいのはドラムだけではない。Pattのへヴィなギターはもちろん、『Death is the Communion』から参戦しているJeff Matzのベースも暴力を余すことなく放出している。3人それぞれの暴力があわさって、うねるようなグルーヴが展開される。

ドラムから他のパートへ言及し、特徴を比較して(今回は共通項)から全体の印象へとつなげています。あるいはこのような書き方も可能です。

この手数が多いながらも一撃一撃重く叩きつけてくるドラミングに、ストーナー由来の持続的なヘヴィギターがあわさり、独自のうねるグルーヴが展開されている。

上で行った、「荒々しい」を分解した表現を使っています。同じ言葉を続けて使うことを避けるのと同時に、詳細な説明も行っています。

楽器陣にある程度言及したので、ボーカルも着目してみます。前作と比較して聴いていると、Pattのボーカルスタイルにもやや違いがあることがわかりました。なんというか、吐き捨てるだけではなくある種の「深み」があります。ストーナーに見識があればこの「深み」を倦怠感ととらえ、Pattの出自とからめて語ることもできましょうが、ランギラス君には難しいのでとりあえず「深み」とそのまま使っておきます。

Pattの怒声も外に吐き捨てていた前作とはやや趣が異なり、ある種の深みが増しており、今作のうねる暴力をさらに強固なものにしている。

ボーカルスタイルを前作と比較し、「うねるようなグルーヴ」への補強として使いました。

音への理由付け

さらに批評っぽくするために、今作の「暴力的」という音像に理由づけをしましょう。理由はWikipediaで見た項目から探します。インタビュー記事を読めればそこから引用するのも手です。

ランギラス君はCONVERGEプロデュースに目をつけました。今回の荒ぶりは、プロデューサーの影響を受けてだな、と考えたわけです。

このようなグルーヴを醸すにいたった理由には、やはりKurtの存在が大きいだろう。

プロデューサーの話がでてきたので、例によって前作のプロデューサーを調べてみましょう。Wikipediaを見ると、プロデューサーが違っていたことがわかります。前作はGreg Fidelmanという、最近のSLAYERやMETALLICA、SLIPKNOT『Vol. 3: (The Subliminal Verses)』やMARILYN MANSON『Holy Wood (In the Shadow of the Valley of Death)』など近年のメインストリームにいる大物プロデューサーだということがわかります。名は売れているとはいえややアウトローな位置にいるCONVERGEとは異なる人物だな、という印象を受けました。

そういう視点でもう一度前作を聴いてみると、なるほど本作より締まった音になっています。というわけで二人の関わった作品の音をまとめると以下のようになります。

  • Greg:メインストリーム向きの整った音
  • Kurt:CONVERGEにも通じる暴力的な音

この二つを対比させて「前作よりよい」という感想に落としましょう。

このようなグルーヴを醸すにいたった理由には、やはりKurtの存在が大きいだろう。前作は、近年のSLAYERやMETALLICA、SLIPKNOTやMARILYN MANSONなど現在のメタルの主流どころをプロデュースしているGreg Fidelmanがプロデュースを手がけていた。そのためか、「メタル」にこぎれいに収まってしまっていた感じがあった。一転本作は、CONVERGEの持つ暴力性が、見事にHIGH ON FIREの持つ暴力性を引き出している。個人的には今作のほうが断然好みだ。

メジャー=こぎれいというやや安易なイメージですが、CONVERGEと対比させることでそれなりに見栄えのある文章になっています。自分の好き嫌いもちゃんと入れて熱意もこめておきましょう。自分の感動が伝わりやすくなります。

ここで「暴力性」という言葉がかぶっていることに気づきます。同じことばは近いところで使わないほうが手馴れた印象になります。類語辞書を使って書き換えましょう。辞書はweblio類語辞典を使っておけば問題ありません。

http://thesaurus.weblio.jp/

「暴力性」で検索すると「獣性」がでてきました。ランギラス君のHIGH ON FIREに対するイメージにぴったりあてはまりましたので、今回はこれを使いましょう。いまいちな場合は「暴力」や「暴力的」でも検索して似たものを探しましょう。

一転本作は、CONVERGEの持つ暴力性が、見事にHIGH ON FIREの持つ獣性を引き出している。

コンセプトを確認する

また、コンセプトも音への意味づけに使えます。暗いコンセプトであれば暗い音になるのは、当然。複雑なコンセプトであれば複雑な音になるのは当然。というわけです。

今回は意味がわからないなりに意味深そうなコンセプトを掲げていましたね。そういえば確かに今作のうねるグルーヴは前作とはやや趣が異なります。なんとなくより「深い」雰囲気を感じています。そういえばPattのボーカルにも深さを感じていたのを思い出しました。また、Kurtとのからみもあるのでそこを交えながら語ります。

また、作品のコンセプトが暴力性に奥深さを加えている。今作は「イエス・キリストにもし双子がいて、その子が死児になったと同時に時間旅行者になったら」という難解なコンセプトを自信満々に掲げている。確かにアルバムジャケットはキリストのような人物が目から目のビームを出して苦しげにしており、意味深げだ。Pattのボーカルスタイルの変化や楽曲の鈍足化は、このコンセプトへの傾倒の現れともいえるだろう。作風が自然と難解な方向へ向かうわけだ。一方、Kurtには大げさなテレビ番組みたいだと揶揄されたようだが、難解な世界観を意識しながら音を作るものと世界観から離れて純粋に音を作るもの。両者が各々の信念がぶつかりあったことで、より一層作品に奥行きを持たせているのではないか。どうやらこの二人の組み合わせは期待を遥かに上回る爆発力を生み出したようだ。

ここでも基本情報のコンセプト、それに対する製作者側の態度を比較、じぶんが感じた音楽的特長へどう影響を与えているか、そしてどういう感動を生んだか、という黄金パターンで語っています。

膨らませた感想をさらに膨らませる

さて、マッチポンプ的な流れですが、ここで「うねるようなグルーヴ」という新しい感想が出てきました。この感想をさらに膨らませていくと文章として強固になっていきます。また、そこからさらに新しい感想がでてくるかもしれません。これらは、あるいはレビューを書かなければ思い浮かばなかったかもしれない「発見」です。こうした「発見」があるのもレビュー執筆の良さですね。

こうして導き出された感想を基本として、さらに別のものと比較していくとどんどん文量も増え視野の広そうな記事になっていきます。今回の例でいえば「暴力的でうねるような奥深いグルーヴ」という新情報を、さらにべつのものと比較していきましょう。比較対象の見つけかたはいろいろありますが、やはりWikipediaで調べられるような基本情報を元にしましょう。ジャンルやプロデューサー、レーベルなどです。そうした基本情報と記事を書くうちにでてきた新情報を組み合わせて話を進めると、より本格的になります。たとえば「HIGH ON FIREとTRAP THEMは両方暴力的という点で共通している」というよりも「HIGH ON FIREの本作とTRAP THEM『Darker Handcraft』は、スラッジメタルとグラインドコアとジャンルこそ異なるがCONVERGEのKurtプロでデュースということもあり、両者ともカオティックハードコアに見られるような暴力性を秘めているという点で共通している」と書いたほうが説得力があります。

ランギラス君はTRAP THEMは知りませんが、Wikipedia英語版のHIGH ON FIREの項目を眺めていたらMASTODONの文字を見つけました。MASTODONは『Crack the Skye』が話題になったのでさすがに知っています。そういえば映画化されるという話も持ち上がるほど世界観が練られたバンドですし、手数の多いドラムで変則的なグルーヴを醸している点がHIGH ON FIREの今作と似ています。Wikipediaで調べてみるとジャンルもスラッジメタルと共通しています。というわけで以下のとおり書きました。

今作で見られるような奥深いグルーヴ感といえば去年の新作も話題になったMASTODONの特徴でもある。MASTODONも『Crack the Skye』で「不自由な身体から抜け出した幽体の多次元の旅」という難解なコンセプトを掲げていた。MASTODONとHIGH ON FIREの両者ともに変則的なリズムを使った独特のグルーヴ感をもつスラッジメタルに落ち着いているものの、片方は宗教的な揺らぎが前面に、片方は荒ぶる暴力が前面に出ているところがおもしろい。

こでも基本情報(奥深いグルーヴ感)→比較(MASTODONとの類似性と相違)→個人的な感想(おもしろい)という黄金パターンが使われています。

ここで、こうなったことへの理由を書きたいところです。ただしそうするには両者の過去作もそれなりに聴いていなければなりません。たしかに両者とも過去にスラッシュメタルに近い音楽性だったことがある点などをふまえると結構おもしろい記事が書けそうですが、書けないものは書けないのであきらめましょう。「おもしろい」という観点を読者に提供するだけでも意味のあるブログ記事です。あと、ここでもCONVERGEを登場させると「こいつこれしか言うことねーのかよ」とおもわれてしまうので止しましょう。

ちなみにランギラス君はMASTODONの新作『The Hunter』は聴いていません。「去年の新作も話題になった」ことは確かに知ってはいますが、ここの文章はほとんどハッタリです。こういうハッタリも技術のうちのひとつですよ、という見本程度に。

締める

まだまだ語れる部分はあるとおもいますが、このあたりで締めておきましょう。重要なのは「聴くまえと比べてどういう気持ちの変化があったか」を改めてしっかり書くことです。その落差が音楽がもたらした感動であり、音楽を聴いた意味のひとつでもあります。もちろん、落差が大きい=感動が大きい=意味のある音楽というわけではありません。落差がないことがむしろ、意味のある場合もあります。

実は彼らの作品は『Snakes For Divine』しか知らず、すごく好きというかんじではなかったのだが、今作はSLEEPまで含めて遡ってみたいと思えるすばらしい作品だった。HIGH ON FIREがいっきに好きになった。発売日の4月3日はちょうど母親の誕生日なのでプレゼントしてみようとおもう。きっと目から目のビームを出して喜んでくれるに違いない。

最後に発売日のネタをいれてみました。天丼ですね。

レビュー後には、自分の好きな曲を列記したり、良い点や悪い点を要約したりするのが流行っているようです。Youtubeへのリンクや作品が購入できるページへのリンクをいれるのも親切ですね。また、引用した場合は出典を明記しましょう。

できあがったレビュー

元SLEEPのMatt Pike率いるストーナーメタルバンド、HIGH ON FIREの最新作『De Vermis Mysteriis』が届いた。今作はあのCONVERGEのKurt Ballouがプロデュースを勤めている。CONVERGEといえば2009年の『Axes to Fall』が相変わらず暴力的で超名作だったし、道は違えど互いにひとつの先鋭的なシーンの形成に関わったもの同士が合間見えるとなれば、胸が躍るのも仕方のないことだろう。

1曲目の「Serums Of Liao」から打ちのめされた。Des Kenselの荒々しいドラミングが打ち響く。前作と比べて疾走パート控えめでミドルテンポ中心の本作だが、それが彼のドラミングの個性をより引き立てている。

もちろん荒々しいのはドラムだけではない。Pattのへヴィなギターはもちろん、『Death is the Communion』から参戦しているJeff Matzのベースも暴力を余すことなく放出している。3人それぞれの暴力があわさって、うねるようなグルーヴが展開される。

Pattの怒声も外に吐き捨てていた前作とはやや趣が異なり、ある種の深みが増しており、今作のうねる暴力をさらに強固なものにしている。

このようなグルーヴを醸すにいたった理由には、やはりKurtの存在が大きいだろう。前作は、近年のSLAYERやMETALLICA、SLIPKNOTやMARILYN MANSONなど現在のメタルの主流どころをプロデュースしているGreg Fidelmanがプロデュースを手がけていた。そのためか、「メタル」にこぎれいに収まってしまっていた感じがあった。一転本作は、CONVERGEの持つ暴力性が、見事にHIGH ON FIREの持つ獣性を引き出している。

また、作品のコンセプトが暴力性に奥深さを加えている。今作は「イエス・キリストにもし双子がいて、その子が死児になったと同時に時間旅行者になったら」という難解なコンセプトを自信満々に掲げている。確かにアルバムジャケットはキリストのような人物が目から目のビームを出して苦しげにしており、意味深げだ。Pattのボーカルスタイルの変化や楽曲の鈍足化は、このコンセプトへの傾倒の現れともいえるだろう。作風が自然と難解な方向へ向かうわけだ。一方、Kurtには大げさなテレビ番組みたいだと揶揄されたようだが、難解な世界観を意識しながら音を作るものと世界観から離れて純粋に音を作るもの。両者が各々の信念がぶつかりあったことが、より一層作品に奥行きを持たせているのではないか。どうやらこの二人の組み合わせは期待を遥かに上回る爆発力を生み出したようだ。

そのような奥深いグルーヴ感といえば去年の新作も話題になったMASTODONの特徴でもある。MASTODONも『Crack the Skye』で「不自由な身体から抜け出した幽体の多次元の旅」という難解なコンセプトを掲げていた。MASTODONとHIGH ON FIREの両者ともに変則的なリズムを使った独特のグルーヴ感をもつスラッジメタルに落ち着いているものの、片方は宗教的な揺らぎが前面に、片方は荒ぶる暴力が前面に出ているところがおもしろい。

実は彼らの作品は『Snakes For Divine』しか知らず、すごく好きというかんじではなかったのだが、今作はSLEEPまで含めて遡ってみたいと思えるすばらしい作品だった。HIGH ON FIREがいっきに好きになった。発売日の4月3日はちょうど母親の誕生日なのでプレゼントしてみようとおもう。きっと目から目のビームを出して喜んでくれるに違いない。

どうでしょう。少々模範的すぎるような気もしますが、形にはなっていますでしょうか。ランギラス君くらいの知識ではこのくらいが限度ですが、もっと詳しいかたであればさらに突っ込んでいけるでしょう。何しろ語る対象は数多くあるのですから。

注意点としては、ただの分析に終わらないことです。○○的な部分が何%、××的な部分が何%という成分分析は、始点と終点に主観的な感動があってこそ活きます。レビューとはあくまで感動を深めるためにあるものだと私は考えます。それは書き手、読み手問わずです。レビューを書く過程で、あれこれ調べて、じぶんの感想と向き合って、という経験は確実に生きた知識となって、音楽的好奇心を刺激し、視野を広げてくれることでしょう。そしてきっと、自分自身の核となる音楽観が見えてくるはずです。音楽レビューとは、音楽作品を通して自分自身と向き合う行為でもあるのです。

おまけ

HIGH ON FIRE『De Vermis Mysteriis』に関しては、なめブログ様が熱のこもったすばらしい批評をしてらっしゃるので皆様ぜひお読みください。

投稿日:2012年11月08日