敬称略。こちらの記事書きました。
ジュンペロ、SUGIZO、sleepyhead 武瑠……ジャンルを問わないアーティストとのコラボ 新たな相互作用の起点に
で、なぜソロでこの4組を取りあげたのか。
それは、もともとのアイデアがヴィジュアル系シーンのエレクトロ+空間ギター作品(もっというとドラムンベース+シューゲイズ)という感じだったからです。それをまとめていったらソロになりコラボ話になり……と記事の内容になったというわけです。(編集のかたの手腕を感じる)
というわけでこちらでは従来予定していた観点からのお話。
見出し
SUGIZO「LUCIFER」(1997):すべてのはじまり
X JAPAN以降のシーンで、エレクトロ・空間ギターのパイオニアは、SUGIZOです。ソロデビュー曲「LUCIFER」(1997)は、ドラムンベースと、ギターを主体としたシューゲイズ/アンビエントな空間表現を組み合わせながら耽美的な世界を形成しています。
こうしたエレクトロとシューゲイズ/アンビエントの組み合わせは、2000年代前半に興った “ニューゲイズ” とも呼ばれた欧米の動きに通じます。
以下がエレクトロ・シューゲイズの代表的&私が死ぬほど聴いた作品。
- Ulrich Schnauss『Goodbye』(2007)
- M83『Saturdays = Youth』(2008)
- Asobi Seksu『Hush』(2009)
M83 ‘Kim & Jessie’ Official video
(エレクトロ・シューゲイズに80年代ポップスの風味が加わった最強曲)
これらに比べると「LUCIFER」は攻撃的で暗くて耽美的なのですが、彼らよりも10年先に似た構造の曲を発表していたことは確かで、SUGIZOすごい。もっとも、優美な雰囲気もあわせてエレクトロ・シューゲイズみたいなところはありますし、90年代に似たような作品もあるのですが……
「LUCIFER」だけでなく、この曲が収録された1stアルバム『TRUTH?』(1997)は、ドラムンベースやトリップホップ、ヒップホップなどに由来する様々なリズムと質感を、彼が得意とするカッティングや浮遊感のあるギタープレイと融合させており、こちらはさらにSUGIZOの深い見識と先進的な感性がバシバシ伝わってきます。
記事にも書きましたが、当時デビューしたてのトリップホップユニットLambのボーカリストとコラボレーションの件は、彼のリスナー兼クリエイターとしての深さがわかるエピソードです。
この『TRUTH?』と精神的な続編ともいえるのが『音』(2017)です。サブスクにはないのですが、下記のダイジェスト動画をみてください。音の「圧」がYouTube音質のダイジェストでも伝わると思います。
彼のソロ作品は全部こんな感じのすばらしさがあります。ぜひチェックしてみてください。
あと記事では触れませんでしたが「光の涯」は『TRUTH?』収録の「LUNA」のアンサーソングです。「LUNA」は1歳の娘に対する感謝と「生」を祝福する歌で、「光の涯」は究極の愛情で祝福である「死」の歌です。で、その生から死へと至った「光の涯」を、ある種まだ「生」側にいるアイナが歌うというこの輪廻感よ……!ふたりの対談もめちゃくちゃよいので読んでください。
【対談】SUGIZO × アイナ・ジ・エンド(BiSH)、「すごく綺麗な曲をいい意味で汚してくれた」
圭『4 deus.』:清濁を行き来する微細なギター表現
BAROQUEの圭(Gu.)のソロ作品『4 deus.』(2019)も、浮遊感のあるギターとエレクトロを融合させた作品です。
BAROQUEでは『sug life』(2004)の時点で、シューゲイズやアンビエント、ジャングル、ドラムンベース、ヒップホップなどを混合させたミクスチャーロックを制作していました。その彼が初ソロ作品『silk tree.』(2009)から10年を経て、作曲からマスタリングまでの全てを自身で担当した本作は、全曲ギターを中心とした内容です。
本作で彼は、ドラムンベースやインディR&Bに通じるリズム、あるいは壮大なシンセとピアノに、ときにメタル的でさえもある、しかし空間的でもある速弾きやチョーキングを多用したギターソロを乗せ、清濁を行き来する微細な音表現でもってさまざまな感情を描いています。
それはBAROQUEやソロの過去の作品以上に彼の内面に踏み込んだ表現のようで、インタビューでは「本当に自分の裸みたいなもの」(引用:https://lmusic.tokyo/news/feature/interview162/2)と発言しています。その本作がファンに受け入れられたことで、彼は自分を曝け出すことに自信を持ち、『PUER ET PUELLA』(2019)、そして『SIN DIVISION』(2020)と、BAROQUEでの作品を出すごとに斬新な手法を取り入れるようになりました。
個人的に注目しているのが、彼が相壁琢人のイベントにてworld’s end girlfriendと同じステージを踏んだこと。私の感覚では、world’s end girlfriendは、日本のエレクトロニカアーティストの中でもとくにこの記事で挙げているアーティストに近い質感を持っており、両者を好むリスナーも少なくないです(ちなみにworld’s end girlfriendには「Flowers of Romance」という曲があり、言語センスは近そうです)。また、彼らのレーベルVirgin Babylon Records所属のabou tessのメンバーtakutoは、圭と既知の仲です(SUGIZOとも)。ここからまた何かしらのコラボレーションに発展したら涙を流して喜びます。
world’s end girlfriend / Flowers of Romance / from “LAST WALTZ”
BAROQUE – FLOWER OF ROMANCE (Music Clip_Full ver.)
(同じタイトルでも内容が全然違うのがおもしろい)
sleepyhead『endroll』:ダークドラムンベース・シューゲイズ
ミクスチャーロックに、シューゲイズやポストロックなどの空間的なロックを取り込んでいったBAROQUE。それに通じる軌跡を辿っているのが、2017年に解散したSuGのボーカリストだった武瑠が、2018年に開始したプロジェクトsleepyheadです。
SuGは、そもそもがBAROQUEが開拓した系譜にある存在感のバンドでした。sleepyheadも、初期はSuGに通じるミクスチャーロックの延長線上にある音楽性でしたが、『endroll』(2019)では従来と異なる作風を聴かせています。表題曲の「endroll」は、ミニマルさと躍動感を両立したIttiのディープなドラムンベースなトラックに、THE ORAL CIGARETTES山中のシューゲイズな深い空間ギターと、武瑠の感情的に抑揚を効かせたボーカルが乗る作品です。
(めちゃくちゃかっこいい……)
このミクスチャー→シューゲイズという流れはBAROQUEのそれとも一致しており、しかし、この曲以外の面もふくめて、全体としては両者違う感触であり、その辺がおもしろいなぁと。
武瑠は、過去にソロプロジェクト浮気者でもPlus-Tech Squeeze Boxなどさまざまなアーティストとコラボレートしています。以前から他者の才能を自身の創作に取り入れて、自分の創作を進化させるのには意欲的でした。『endroll』は、そんな彼のセルフプロデュース能力が存分に発揮された作品ともいえます。
(ゴスEDM。めちゃくちゃかっこいい……)
有村竜太朗:本編はエレクトロではない
シューゲイズとヴィジュアル系というと真っ先に思い浮かぶのがPlastic Tree。そのボーカリスト有村竜太朗もソロ作を出しています。音楽的にはバンドサウンドに焦点を当てており、前述のアーティストたちとは異なるアプローチを取っています。
ただ、ボーナストラックのアコースティックアレンジでは、エレクトロ・シューゲイズ的なこともやっています。初回盤AとBで収録されているアコースティックアレンジが違うという鬼仕様ですが、TSUTAYAでネットレンタルもできるので……
ジュンペロ:超豪華ゲスト参加
ちなみにここまで挙げたアーティストは全員ヴィジュアル系という言葉に複雑な思いを抱えております。そんな中、現在のヴィジュアル系シーンのど真ん中からエレクトロ・シューゲイズ界に参入したのが、DOG inThePWOの準々のソロプロジェクト、ジュンペロです。記事でも名前を出したJYOCHOだいじろー参加曲とそれでも世界が続くならの菅澤参加曲は、ここまでに挙げたアーティストの曲に近い雰囲気です。
そしてこのジュンペロ、参加ゲストの豪華さが異常です。ジャケットや曲名、ジュンペロというプロジェクト名からわかる通り、ちょっとふざけた、チャラけた雰囲気のある人物で、本体バンドも含めてそういうキャラと一致したポップでファニーな音楽が魅力です。
DOG inThePWO「アンハッピーバースデー」Music Clip
一方で、ゲストは、そういうチャラけ属性からすると意外なガチ勢ばかり。『13/700000000』では、DEATHGAZEというゴリゴリ重低音バンド代表格でも知られ現在はゴリゴリ耽美グルーヴ/デスラッシュDARRELLを率いる藍(Gu./Vo.)、ソリッドでオルタナなサウンドを聴かせるバンドDevelop One’s Faculties(Gu./Vo.)のyuya、ヴィジュアル系デスコアの第一人者のCazqui(Gu.)、ヴィジュアル系実力派耽美メタルを確立したVersaillesのMASASHI(Ba.)、そしてBAROQUEの圭(Gu.)を迎えました。おそらく準々本人の依頼で、ゲストのみなさんは本体よりも自由にやっているのではと思うほど自由に演奏しており、ゲストを知っているとかなり楽しいです。知らなくてもさまざまなギタープレイが聴けて楽しいです。彼のツイッターでは彼らとのなれそめが書かれていますので、みてみてください。
とまあそちらは、意外とはいえどシーン内からのゲストだったのですが、『20/700000000』はシーン外の実力者を迎えました。ファンから「ヴィジュアル系っぽい(見た目が)」といわれることもあった八十八ヶ所巡礼のKatzuya Shimizuと、同じくマーガレット廣井。プログレッシヴかつポップな音楽を聴かせるJYOCHOのだいじろー。西洋的なリズムの概念を突破したダンスミュージックを聴かせるskillkillsのGuruConnect。轟音ギターで悲痛な衝動を描くそれでも世界が続くならの菅澤智史。実験的なエレクトロニカルなアプローチを普遍的な歌ものポップス/ギターロックと接続するcolormal。
こんなメンツある???
彼のツイッターをみると、一部のアーティストとは面識がなく、彼からのアツいオファーによって実現したそうです。八十八ヶ所巡礼、それでも世界が続くならは一部ヴィジュアル系の音楽性とも通じているのでまだわかります。colormalも大きくくくると「ギターロックバンド」なのでまだまだわかります。JYOCHOやskillkillsがやはりかなり意外。ぜんぜん質感が違う。それだけ、準々のリスナーとして嗜好の幅広さがあるということでしょう。
ボーカルがヘロヘロ(全編裏声みたいなヌケのある独特の発声。NARASAKIっぽさがある)でファニーな雰囲気があるので結構人を選ぶとはおもいますが、作編曲のレベルは高いです。MASASHIによる「バカと天才の間」「若干バカ側に傾いているけど」の評が的確すぎる。そして、本人のプレイはもちろん、各プレイヤーの魅力を存分に引き出そうと意図されただろう曲たちは聴いてておもしろいです。ただ、GuruConnectとの曲は、skillkillsの独自さを頭に置いて聴くと肩透かしを食らうかもしれません。
昨今シーン内外アーティストの交流が……という話や出来事が目立つような気がしますが、その中でも突出して驚いた作品でした。
おわり
というわけで00年代をすっとばしたものの、ヴィジュアル系エレクトロ・シューゲイズの流れをまとめました。個人的に好きな部類の音楽性なので、盛りあがってほしいなあ。みなさんが好きなヴィジュアル系隣接エレクトロ・シューゲイズ曲も教えてくれると嬉しいです。
V系ソロにおけるエレクトロ・シューゲイズ:SUGIZO→BAROQUE圭→sleepyhead、そしてジュンペロhttps://t.co/mspi222NSP
更新しました。こちらのリアルサウンドの記事の対となる内容です。https://t.co/F5aWxmn4eN
— Decayed Sun Records (@DSR_official_jp) March 14, 2020