Madmans Esprit来日:emmurée, umbrella, 明日の叙景との共演でみえる「オルタナティヴ」

Madmans Espritが2度目の来日公演を行います。

このとき出演するイベントは下記の二つ。

は???? 神か??????

以下、この件について掘りさげていきます。敬称略。なお、Madmans Espritの概要についてはこちらの記事をご覧ください。

  • 活動範囲はそれぞれ異なるものの、いずれのバンドも何かしらヴィジュアル系に影響を受けながら、王道に属さず、それぞれの活動範囲で自身の美意識と創造性を磨きつづけている。
  • 4者が共演することで複層的に “オルタナティヴ” という概念が浮かびあがる

emmurée vs umbrella~ヴィジュアル系としての “オルタナティヴ”

前回の来日と同様池袋手刀で行われるイベント。まずはemmuréeとumbrellaがどのようなバンドなのかをみていく。

emmurée:フィードバックノイズが描く暗黒浮遊耽美世界

池袋手刀(あるいはzoisite shopは、ヴィジュアル系シーンのなかで独特の存在感をもつ。そんなzoisite取扱バンドの中でも活動歴が長く、識者からの評価ももちろん高いのが彼ら。こちらのブログで暗黒白系という形容があるが、その通り、L’Arc〜en〜Ciel(ヴィジュアル系ではない)がみせた舞うような美しさを、ヴィジュアル系が持つ背徳的な黒さに混ぜ込んだような音楽性をしている。

曲調は幅広いが、全体を通して、フィードバック音混じりのギターの渦と、独特の音感を持つメロディラインが空間を舞う点が大きな特徴のひとつだろう。フィードバックがベースとドラムの土台の芯の強さと混じり合い、退廃・耽美な儚さを持ちながら、さらにガレージ・ロックのようなぶっきらぼうな力強さも併せ持つ。2018年の『lightless.』は、その特徴が強く感じられる作品。本作ではフィードバックが高じてノイズロックのようになっている点も見逃せない。

そうした音楽性は「朧げに、猶予う。」といった独特の言語感覚やアクの強い歌唱方法と合わさり、他にはない暗黒浮遊耽美世界を形成している。美意識が、言葉から音に至るすべてに宿っているからの結果だろう。

umbrella:濃厚な音楽世界をモダンにアレンジ

ヴィジュアル系大手事務所DANGER CRUE RECORDSとの契約を実力で得た彼ら。RADWIMPS~amazarashi的なラップ混じりのJ-Rock表現や、ダンスビートの積極的な導入など、10年代のバンドらしい面をみせる。一方でもちろん、オルタナのティヴ・ロックの骨太さと、シューゲイザーに通じる空間的な音使い、そしてアクの強い発声方法など、emmuréeと共通した濃厚な耽美表現もみせている。

zoisite的な、ときに “通好み” とも形容される濃い世界観を、近年の流行も取り入れながら、大手事務所の後ろ盾をもって、より広範囲に訴えかけているのが彼らといえるだろう。

2019年6月発売のシングル「リビドー」では、間と揺れを意識した緊張感のあるアンサンブルを聴かせ、より武骨に、骨太に変化した。とはいえ、これまでの空間感覚は失われておらず、緊張感をサビで解放して浮遊させるという形で発揮している。M3「未来計画」でのフュージョン的なコード感もばっちりハマっており、どこか『ウツセミ』以降のPlastic Treeが感じられた作風から、完全に次の段階に移ったように感じられる。今後は、さらに個性に磨きをかけながら活動を拡大していくのだろう。

emmuréeとumbrellaにMadmans Espritが加わって浮かび上がる多層的な “オルタナティヴ”

さて、emmuréeとumbrella。共通する世界観をもち、さらにお互いにガレージ/オルタナの持つ骨太さを強く感じさせる作品を出したところでのこの企画。強く納得できる。

そして、ここにMadmans Espritが加わることでさらに文脈に厚みが出てくる。Madmans Espritは、初期はデプレッシヴ・スーサイダル・ブラックメタル(以下DSBM)に近く、以降徐々に『UROBOROS』以降のDIR EN GREYの、ニューメタルから発展したプログレッシヴ・デスメタルといった趣の要素が強くなってくる。2019年のEP『Glorifying Suicide』収録の「Raison d’être」では、LUNA SEAをブラックメタル的に解釈している。

ヴィジュアル的にも鮮烈で、彼の背後にある耽美・退廃的な価値観には、様式としてのゴシックではなく精神としてのゴシックが宿っているように思える。emmuréeとMadmans Espritは、深く精神に根づいた退廃・耽美から発せられる力強い音楽性という点で似ている。さらにいえば、emmuréeは、「無色透明」の嘆きのトレモロがわかりやすいが、『lightless.』でブラックメタル的な表現を取り入れている。音楽的にも両者が近づいた時期の共演となっている。

umbrellaは音楽的にはMadmans Espritとは遠いが、emmuréeを基点につなげてみると、やはり根底の美意識に近いものが感じられる。

さて、emmuréeとumbrellaは、広義のメタルが主流の現行ヴィジュアル系シーンにおいてオルタナティヴな音楽性をしている。一方のMadmans Espritは、DIR EN GREYの影響を受けているという点で “広義のメタル” に入る。しかし、韓国出身でブラックメタル要素が強いという点では、日本のシーンに対するオルタナティヴな存在になっている。国内の非メタル的でオルタナティヴなヴィジュアル系のインディペンデント対大手事務所所属、あるいは00年代バンド対10年代バンドのイベントに、国外のメタル的でオルタナティヴなヴィジュアル系のバンドが加わることで、ヴィジュアル系における “オルタナティヴ” の概念が複層的に浮かびあがってくる

音楽的には異なりながらも、精神的に、あるいは存在として共通している3者が集まるこのブッキングは、来日・共演の意味がとても強いように思える。

明日の叙景~ポスト・ブラックメタルとしての”オルタナティヴ”

ここまででも早口オタクになっているが、さらにMadmans Espritは明日の叙景主催イベントにも出演する。

明日の叙景は、ポスト・ブラックメタルというジャンルで語られることが多い。とはいえ、インタビューをみると、日本でいうカオティックハードコアや激情ハードコア、そしてヴィジュアル系もルーツとして強いようだ。それもあって、欧米のいわゆる “ポスト・ブラックメタル”──すなわちAlcestやDeafheavenとは雰囲気が大きく異なり、さらにheaven in her armsやisolateといった国内のブラックメタル要素のある激情/カオティックハードコア・バンドの先人とも異なる、独自の音楽性を築いている。構築的なフレーズや美麗なメロディを、感情の濁流が飲み込んでいくような展開をする楽曲は、クラシックギターを習っていたという等力、ジャズドラマーのレッスンを受けていたという齊藤に、リスナー視点の意見を出す布というメンバー間のバランスの表れのように感じられる。

その独自性から、中国を拠点とし、ポスト・ブラックメタルをふくむアトモスフェリックなブラックメタルを扱うインディペンデントなレーベルとして広く知られるPest Productions(以下Pest)と契約をしている。ちなみに、Pestは、他に『デプレッシヴ・スイサイダル・ブラックメタル・ガイドブック』の著者の長谷部によるDSBMバンドNo Point in Livingとも契約している。

明日の叙景とMadmans Espritの共通点と違い

ここまでみてきたように、明日の叙景とMadmans Espritには多くの共通点がある。まず互いにヴィジュアル系にもルーツに持ちながら、ポスト・ブラックメタルに近しい音楽を行っている点。また、No Point in Livingの件からもわかるが、Madmans Espritは、アジア出身でDSBM/ポスト・ブラックメタルという点でPestに扱われてもおかしくない存在という点もあるだろう。明日の叙景やNo Point in Livingを含むPest作品などのアンダーグラウンドなメタルを扱うフランスのウェブジンScholomance Webzineは、Madmans EspritのKyuhoにインタビューを行っている。Madmans EspritはGan-ShinというJ-Rock/Visual kei色の強いレーベルと契約しているが、ポスト・ブラックメタルという観点からも注目される存在だといえる。

インタビューで明日の叙景の等力は枠組みを作る方に回りたいといっている。実際、ポスト・ブラックメタルに、日本独自の枠組みである激情ハードコア/カオティックハードコアを混ぜたような音楽性は、インタビューから垣間見える哲学とそれを反映した表現方法もあって、どこかの枠組みに収まるものではない。そして、Madmans Espritの、DSBM/ポスト・ブラックメタル的な要素を、DIR EN GREYやSHININGのプログレッシヴ・デスメタル/ブラックメタルな側面と混ぜながら、ヴィジュアル系らしいキャッチーさで聴かせる音楽性、そしてそれをより独創性のあるものへ昇華するKyuhoの人間性と表現への意志も、何かしらの枠組みで語れるようなものではない。(ちなみにKyuhoは一時期ドイツに住んでいたことがあり、さらに幼少期にクラシックギターを習っており、この点でも明日の叙景の等力と共通している。ただし、等力はヴィジュアル系の影響を公言していない点は異なる)

同じアジアのポスト・ブラックメタル(広義)で、音楽的背景も近い。しかしながらもちろん、異なる部分も多い。たとえばルーツに激情ハードコアがあるかないか。あるいはヴィジュアル系を名乗っているかいないか。そうした点が重なり、両者の音楽はAlcestとDeafheaven以上に異なる。共通性と差異性が絡みあった彼らが共演することで、まだ確立されていないようにおもえる日韓のポスト・ブラックメタル・シーンの豊かさと独自性がみえてくるようにも感じられる(もっとも、Kyuhoは韓国には音楽シーン形成自体期待できないといっているが)。明日の叙景が他にどんなバンドを招聘するのか、注目したい。

精神性としてのヴィジュアル系

さて、emmurée vs umbrellaと明日の叙景主催をMadmans Espritで繋いでみてみると、そこに浮かぶのはやはりヴィジュアル系と “オルタナティヴ” という概念だ。活動範囲はそれぞれ異なるものの、いずれのバンドも何かしらヴィジュアル系に影響を受けながら、王道に属さず、それぞれの活動範囲で自身の美意識と創造性を磨きつづけている。(もっといえば、『lightless.』を聴くと、emmuréeが明日の叙景主催に出演しても、驚きはあるが違和感はない。うっすらだけどENDONっぽいし……)

藤谷・市川の共著『すべての道はV系へ通ず。』でヴィジュアル系の精神という言葉が出てきた。これは “過剰の美学” と言い換えられるものだったが、今回のMadmans Espritの来日は、それとは少し異なる意味での “ヴィジュアル系の精神” を浮かびあがらせているように思える。そしてその精神は、ヴィジュアル系だけでなく、ブラックメタルやオルタナティヴ・ロック、あるいは激情ハードコアといった枠組みを形づくってきた数々の先人も持っていたものなのだろう。

当日どのようなライブが行われるのか。期待して待とう。

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