BAROQUE『PUER ET PUELLA』:鍵型USBが導く最高の音楽体験(レビュー)

2019年7月30日、BAROQUEのアルバム『PUER ET PURELLA』が発売された。シューゲイザーやポストロックに通じる空間表現と、情緒的なメロディ、力強くノリのよいリズム、絶妙な音表現などが組み合わされた傑作になっている。本作は、音楽的な面はもちろん、会場・限定盤の仕様が生み出す体験もすばらしいので、それについてレビューしていく。

要約

鍵型USBメモリが生み出す体験

本作の会場・通販限定盤には、前作『PLANETARY SECRET』同様、ハイレゾ音源が収録された鍵の形をしたUSBメモリが入っている。そして、この “鍵” は、本作において強い意味を持っている。

リスナーが “本来の自分” を取り戻す作品

「PUER ET PURELLA」はラテン語で “少年少女” を意味する。このタイトルには “聴いた人が本来の自分を取り戻すような作品にしたい” という想いが込められている。表題曲の「PUER ET PURELLA」は、どんな生き方をしてきたリスナーでも受け止め、本来の自分に戻す受け皿のような曲を想って制作されたようだ。

「少年少女」という題ならわかるとおり、”本来の自分” とは、ある種の純粋さを意味している。それは、現実社会での出来事や人間関係で見失ってしまうような類のものだ。

本作では、”本来の自分” のために、リスナーと現実社会を結びつける方法を取る。downyの青木裕の死が制作のきっかけとなった「AN ETERNITY」や、戦争を連想させる「SKY FITS HEAVEN」は象徴的だろう。自分を見失ってしまいそうな大きな出来事をどう受け止めるか。自分の心に改めて向き合うことで、これまでの自分の生き方も確認し、”本来の自分” の心を取り戻す。そういう作品になっている。

そして、”本来の自分” を取り戻して終わりではない。取り戻した自分でもって、改めて世界と向き合っていかないとならない。最後の曲「PERFECT WORLD」の「Dreaming of it/Perfect World」という言葉を胸に、リスナーは新しく世界を生きて行く。

コンセプトは音楽性と深く通じる

こうしたコンセプトは、彼らの音楽性とも深く通じている

ダンスビートやビルドアップ、マーチング風など、本作のリズムは身体的な面が強い。そこに、前作以上に洗練されたポストロックやシューゲイザーに通じる解放的な空間表現がのる。リスナーは、リズムで身体的な躍動を、空間表現で精神的な安らぎを得る。

BAROQUEの音楽は、ときにつらい現実をともなう “本当の自分” と向き合うためのサポートを、心身ともにしてくれる。彼らがもつメロディの良さや、「LAST SCENE」などでのJ-Popの王道的な表現での普遍性は、その効果をより高めている。

そして何より、メンバー二人の演奏表現が、リスナーの心に響いてくる。感情的だが適度に抜けていく怜のボーカルと、雄弁だが泣きすぎない圭のギターソロは、人間の複雑な感情を豊かに表現する。それらは、リスナーが自分の心を見つめ直す際の感情の変化を広く受け止めて、前へと進む活力としてくれる。たとえば、壮大で情緒的なインストゥルメンタル「BIRTH OF VICTORY」から、4つ打ちとアコギのコード感で圧倒的な包容力を醸し出す「PUER ET PUELLA」の流れは “大きな存在” を感じさせる。ときに過剰になり、リスナーを置いてけぼりにし、威圧しかねないこうした曲たちも、二人の繊細な感情表現によって柔らかさを保ち、リスナーをそっと包み込む。

リスナーの心を開く “鍵”

このように、コンセプトと音楽が強く一致した本作は、鍵型USBを通すことで、さらにリスナーの心に響くようになる。リスナーの「鍵で開く」という行動が、作品の「”本当の自分” を取り戻す」というコンセプトと直結しているからだ。

“本当の自分” を取り戻す過程で、リスナーはこれまでの自分を見つめ直し、心を解放することになる。つまり、本作での「鍵で開く」動作は、「鍵で心を開く」という意味を持つ。”鍵” は、作品の鍵でもあり、リスナーの心の鍵でもある。

また「鍵で開く」ことで、リスナーは「開いた先の出来事を待ち受ける状態」になる。BAROQUEの音楽は、そしてコンセプトと一致したアートワークや、封入されたインタビューの言葉は、そんなリスナーに寄り添い、心を解きほぐしていく。

このように、”鍵” は、作品のコンセプトを、視覚・触覚・動作レベルでもリスナーに体験させる。そういう点で、単に豪華・多コンテンツというレベルを超えた、意味のある特殊仕様といえる。

前作を改めて開く “鍵”

“鍵” の効果はそれだけに留まらない。本作を体験することで、前作の鍵の意味も変わってくる。

前作の鍵は、『PLANETARY SECRET』という壮大な世界を開くための鍵という意味合いが強かった。インタビューでは、その世界が今作に繋がっていることが示唆されている。そうなると、前作の鍵もまた、リスナーの心を開くための鍵という意味を帯びてくる。そういう観点で前作に接すると、また新しい体験が生まれる。

2枚のアルバムを連続したコンセプトで繋げて、作品に多重な意味をもたらす手法は少なくない。それをさらに本作は、鍵型USBを通して、2作品を言葉や音だけでなく、見た目や手に触れる感触で繋げた。

BAROQUEと心から繋がるための “鍵”

そしてもちろん、この鍵は、BAROQUEの二人の心に繋がる鍵でもある。

圭はインタビューで、「LAST SCENE」を「鍵を開けて書いた曲」と語っている。そして、鍵を開けたことで「AN ETERNITY」に向き合うことができたという。ほかにもソロ作品『4 deus.』の制作など、さまざまな形で自らと向き合った結果、本作に辿り着いたことがわかる。

怜は「FLOWER OF ROMANCE」の制作過程で「もう、綺麗な自分じゃなくていい」と救いを感じたと語っている。また、立っていられなくなるほど精神的に入り込んでレコーディングをしたこと、作品のために死の感覚を得ようとしたことなども語られている。作品の「世界に入り込む」ことと、そのために自分と深く向き合うこと。本作ではその二つが行なわれたようだ。

そうして生み出された本作には、彼ら自身の “本当の自分” が込められているといっていいだろう。

リスナーは、本作で自らの心を開くと同時に、BAROQUEの二人の心も開く。「鍵を開く」という行動を通して、彼らの想いは、ユーザーの開いた心に深く染みこんでいく。

ヴィジュアル系史上最高峰のフィジカル体験

CDやただのUSBメモリではこのフィジカル体験は起こらない。作品を鍵型USBメモリに入れた。形としてはそれだけだが、逆にそれだけのことに大きな意味をもたせて、彼らは最高の体験を作り上げた。イントロ流れた瞬間に私は泣いたよ……

このあと、最低でも1作が制作されるようだ。次の “鍵” が、果たして何を開け、どんな体験をもたらしてくれるのか、今から楽しみで仕方がない。

コンセプト抜きでも名作&購入方法

と、こうしたフィジカル面での特徴はあるにせよ、じゃあ鍵型USBがなければこの作品の真の魅力が味わえないのかというと、そういうわけではありません。鍵型USBは作品に内包されている “鍵” を感じやすくするための補助具のようなもの。音楽だけでも十分にそのコンセプトは私たちの心を打つでしょう。そして、コンセプト抜きでもすばらしい作品なのも間違いないです。

本作の会場・通販限定盤は15000円と高額で、通常盤も特殊仕様で3500円。さらにサブスクリプションサービス未配信ということもあって、アクセスしにくい印象を受けるかもしれません。いっぽうで、収録曲の多くがYouTubeで配信されています。また、iTunes Storeでも買えます(ダウンロード2400円はCDより割高に感じるひともいるでしょうけど……そしてたぶんAndroidスマホからは買えない。さらに、この記事公開時点ではAmazon Mp3やGoogle Play、各種ネットレンタルでは見当たりませんでした……)

まずは動画をいくつか見たうえで、お好きな形態を買ってみてはいかがでしょうか。ちなみに8月18日現在、限定盤も残ってます。

BAROQUE-NEW ALBUM『PUER ET PUELLA』(2019/7/30 Release) より 「PUER ET PUELLA」


(はじまりの丘……)

『PUER ET PUELLA』(iTunes:スマホ版はiPhoneのみ)

『PUER ET PUELLA』(会場・通販限定【数量限定】)

『PUER ET PUELLA』(通常盤)

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