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MADMANS ESPRIT:時代が指し示す韓国ヴィジュアル系ブラックメタル

MADMANS ESPRIT はソウルとベルリンを拠点とする叫號(Kyuho)によるソロプロジェクトで、post black metal + visual kei を自称しています(*1)

国外バンド + ブラックメタルというヴィジュアル系としては珍しい存在で、さらに新作発売と来日公演が控えているということで、日本でも局地的に話題になっています。

いや待ってください。日本の一部オタクがまたキワものを掘りだして騒いでいるだけ、というわけではありません。

新作『Conscientization of Unconsciousness』は Gan-Shin Records より10月1日に発売されます。

Gan-Shin Records はヴィジュアル系バンドを中心に日本の音楽をあつかうドイツのレーベルです。L’Arc〜en〜Ciel クラスのバンドとも契約しており、このジャンルではヨーロッパの名門です。

名門レーベルが認めるクオリティだということです。

と権威をおもいっきり利用したところで、以下、おもにジャンル的観点から彼の音楽性をみていきます。

MADMANS ESPRIT 概略:ヴィジュアル系 + DSBM + α

話題のきっかけは新作に収録される「you don’t allow me」の MV でした。

(街頭を練り歩くゴシック青年と好奇の目を向ける群衆……)

ブラックメタルの陰惨な雰囲気とヴィジュアル系の退廃的な美意識 + ゴシック歌謡感があわさり、独自の音楽性を築きあげています。とてもかっこいい。

ヴィジュアル系面は DIR EN GREY の影響が強く、ブラックメタル面は SHINING(スウェーデン)などのデプレッシヴ・スーサイダル・ブラックメタル(DSBM、通称鬱ブラ)要素が強いです。朗々と歌う部分はゴシックメタル風ですが、もしかしたら韓国歌謡的な部分もあるのかもしれません。

これらの影響については本人もインタビューで認めるところです(*2)。そのほかにも OPETHSHINING(ノルウェー)、RADIOHEAD などの影響があるようです(*1)。たしかに前者ふたつのプログレッシヴな側面も感じます。

(なお、ポストブラックメタル表記ですが、2000 年代以降の新興ブラックメタルくらいの意味のようです。一般にいわれる ALCEST や DEADHEAVEN などのシューゲイズ・ブラックとはすこし雰囲気が異なります。後期鬱ブラはシューゲイズ・ブラックに近似してはいるのですが…… こういう重箱の隅をつつくような話をするのはオタクの悪いクセ)

ヴィジュアル系には珍しいブラックメタルと日本の鬱ブラ事情

ヴィジュアル系メタルは大きく3つにわけられます。

  • X JAPAN からつづく正統派メタル
  • DIR EN GREY 以降のニューメタル → デスメタル
  • (ニューメタル →)メタルコア

というわけでブラックメタルはほとんどみません。正統派は言わずもがな、ニューメタルのグルーヴィなかんじや昨今のとにかく重心を低くする風潮が、ブラックメタルメタルのコールドでイーヴルなトレモロと相反するからでしょうか。(ブラックメタルの要素が強いバンドを知っているかたは教えてくださるとうれしいです)

鬱ブラとなるとそもそもヴィジュアル系じゃなくても本格的に活動しているバンドは日本には少ないのでは、というかんじです。

そんな状況ながら、今年鬱ブラの専門書『デプレッシヴ・スイサイダル・ブラックメタル・ガイドブック』(長谷部裕介、パブリブ)が発売されているのは、さすが鬱・自殺大国日本といったところでしょうか。

著者の長谷部氏は自身も No Point in Living という DSBM プロジェクトで活動しています。

極初期ムックは鬱ブラじみていた

実は、ヴィジュアル系鬱ブラともいえる存在もいます。極初期ムックです。

この「アカ」はボーカルが金切り声なら鬱ブラそのものの音楽性。歌詞も厭世的でデプレッシヴ。ジャケットだけなら『負ヲ讃エル謳』の傷だらけ裸体も鬱ブラの特徴に見事にあてはまります。

とはいえムックの「アカ」は 1999 年作と鬱ブラ発生以前なので、彼らの内に秘めたものを表現したらのちに鬱ブラと呼ばれるスタイルに近いものになった、というのが正しいでしょう。(そう考えるとムックすげぇ)

余談ですが、ムックは「我、在ルベキ場所」で街頭練り歩き MV を撮っています。そういう意味でも MADMANS ESPRIT と共通している……

自己表現の結果としてのヴィジュアル系 + DSBM

内に秘めたものを表現する。それは MADMANS ESPRIT にも当てはまります。

彼はヴィジュアル系や各種メタルの影響を受けていることを認めつつ、以下のように発言しています。

音楽を作るときに特定のアイデアやコンセプトを持ったことはないので、3つのジャンル(筆者註:ヴィジュアル系、鬱ブラ、ゴシックメタル)が混ざった理由は自分でも説明できないんですよ。自分の内側から自然にでてきて、そのときからすでにそういうサウンドでした。

As I never have a specific idea or concept to write my music, I can’t really tell the origin of those three mixtures. It all came out of me naturally and it already sounded like that. (*2)

「ヴィジュアル系とブラックメタルをまぜてみよう!」というコンセプトにもとづいたわけではなく、自分の表現をつきつめた結果、内面からでてきたのがそれだった。

自己の美意識を見つめる側面があるヴィジュアル系と、自己と世界の狭間で苦痛にもがく鬱ブラにとっては、とても相性がよい姿勢です。だからこそそのふたつが違和感なく彼のなかで共存し表現されたのでしょう。

「型」ではなく「場」としてのヴィジュアル系

この姿勢は、彼のヴィジュアル系観とも合致します。

ヴィジュアル系は私にとって音楽ジャンルというよりもシーンや文化なんです。音楽的にも美学的にも、自分が望むものを自由に表現できます。

Visual kei for me is more like a scene and culture rather than a musical genre. It gives me the freedom to express what I want musically, also aesthetically. (*2)

ヴィジュアル系を参照する「型」ではなく表現する「場」として捉え、ヴィジュアル系として活動する。

市川哲史・藤谷千明『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック・エンタテイメント)で、以下のような文があります。

市川 (…)だって20世紀の先人たちは決してV系バンドと呼ばれたかったわけではなく、その過剰な雑食性の赴くままに自己陶酔してたら、いつの間にか勝手にそう呼ばれるようになっちゃった。だから〈V系〉と自ら名乗ることに、抵抗と違和感があるんだよ。(281ページ)

この抵抗と違和感が強まっての「最近のヴィジュアル系は最初から “ヴィジュアル系” を志しているためにオリジナリティがない」というのはよく言われる批判です。

この批判の是非についてはわかりませんが、すくなくとも MADMANS ESPRIT にかぎっては、最初からヴィジュアル系を志してかつ過剰な雑食性を発揮してのオリジナリティだといえます。ただしそれは、ヴィジュアル系は「型」ではなく「場」であるという認識があってのものです。

韓国音楽シーンの現状がゆえに到達した音楽性

「場」という言葉につづき、ここで韓国の音楽シーンに注目してみましょう。

Kyuho はこう言っています。

音楽シーンがあるとは言えないです。韓国は文化的に本当に偏狭な国なので。メインストリームしかない。

(…)it’s really hard to tell there is an existing music scene. Korea is a culturally very narrow minded country. There’s only mainstream music.(*2)

2014年の後半にベルリンに引っ越して、韓国と違ってここにはシーンがあると感じました。コンサートに来て、アルバムを買い、情報を共有して、彼らのライフスタイルを生きる。そういうひとたちがいると。

I moved to Berlin in late 2014, scene-wise the difference is that there is a scene in Germany, that there are people coming to concerts, buying albums, sharing information, living their lifestyle.(*2)

韓国のマイナー音楽シーンの盛りあがらなさをもどかしく感じていたようです。

MADMANS ESPRIT はヴィジュアル系 + ブラックメタルなので、その両方についてみてみましょう。

韓国メタルシーンの規模は大きくはない

韓国メタルに関しては『デスメタルコリア 韓国メタル大全』(水科哲哉、パブリブ)という本が出版されています(MADMANS ESPRIT も紹介されています)。こちらを読むかぎりは「そこまで偏狭でもないのでは?」という気もします。

ただ、日本だとキャパ1000人クラスの CRADLE OF FILTH 来韓公演で客が40人くらいしかいなかったなどの実態もあるようです(*2)現地のかたの写真入りレポもあり。全盛期ではなかった、メタルのソウル公演が連日つづいたなどの背景もあるようですが(水科氏に教えていただきました)、すくなくとも日本よりはマイナーなジャンルなのでしょう。

ヴィジュアル系シーンはたぶんない

韓国では 90 年代から EVE という有名なヴィジュアル系バンドがいます。あとはANGEL HEARTDEVA といったところでしょうか。

ただ、それ以降あまり情報がないです。Kyuho 自身 ms. isohp romatem というバンド(オルタナ/ポジパン系でめちゃかっこいい)を掛け持ちしているくらいです(*2)

そもそも、海外ヴィジュアル系自体がレーベル未契約規模の活動がほとんどのマイナーなジャンルですこちらの記事参照。ただ、数年前の記事です。これ以降クオリティの高いバンドがいくつか登場してます)。シーンと呼べるほどの状況ではなかったでしょう。

メタルもヴィジュアル系もシーンがなかったからブラックメタルに寄っていった

初期 MADMANS ESPRIT は、そこまでブラックメタル要素は強くありませんでした。1st アルバム『NACHT』からメタル要素がまえにでてきたと本人も語っています(*2)

韓国ではメタルシーンもヴィジュアル系シーンも十分ではない。だからこそ両者が区切られるようなこともなく、DARK MIRROR OV TRAGEDY のようなブラックメタルバンドと自然な交流が行われた。そうしたなかで現在のヴィジュアル系 + ブラックメタルな音が醸成されていったのではないでしょうか。

ヴィジュアル系はシーンや文化といいつつ、自国にはそもそもシーンや文化がないという状況は、彼にとって喜ばしくはなかったでしょう。しかし、それがかえって「型」に収まらない彼の音楽性を生みだす遠因でもあったのではないかとおもうのです。そして、日本でこうしたバンドが生まれなかった遠因でも。

時代が MADMANS ESPRIT を指し示す

さて、ここまで出てきたように、2018 年、日本では以下の書籍が発売されています。


デスメタルコリア: 韓国メタル大全

デスメタルコリア: 韓国メタル大全

水科 哲哉
2,700円(09/23 06:58時点)
発売日: 2018/08/10
Amazonの情報を掲載しています

すべての道はV系へ通ず。

すべての道はV系へ通ず。

市川 哲史, 藤谷 千明
1,944円(09/23 06:58時点)
発売日: 2018/08/06
Amazonの情報を掲載しています

そして今年10月1日に発売される、韓国生まれのヴィジュアル系 DSBM-ish プロジェクト MADMANS ESPRIT の新作『Conscientization of Unconsciousness』……

偶然にしてはできすぎている。時代が MADMANS ESPRIT を指し示しているとしかおもえません。まさにすべての道は MADMANS ESPRIT に通ず……

というわけでヴィジュアル系オタクのみんな、くらこわ音楽オタクのみんな、ぜひチェックしてみてくれよな!

『Conscientization of Unconsciousness』の予約はこちら(Bandcamp)

予約版は初回限定 CD となり、9月1日先行発送で、サインとボーナストラックがつきます。

CD はいまのところ公式 Bandcamp からのみ予約可能ですが、そのうち各種 CD ショップなんかでも流通するのではないでしょうか。発売日になればダウンロードも解禁されます。ストリーミングも配信されることでしょう。

来日公演は11月21日に池袋手刀で行われる予定です。詳細はまだ発表されていません。

ほかの先行公開曲紹介

「you don’t allow me」以外にも2曲新作から先行公開されており、いずれもすばらしいので紹介します。

「Parade of extinction, 消滅の行列」の日本語字幕入り映像

うれしい日本語字幕入り。

「生卽苦 (Life, thus pain)」のMV

この舞踏…… 美しい……

HUMAN TRACES – Alles Schwarz [Official Video] | www.pitcam.tv

別バンドですがこちらも紹介。Kyuho がおそらくドイツに移住してから組んだジェントバンド。ヘヴィメタルな高音シャウトを聞かせており、ボーカリストとしての表現の幅広さがうかがえます。

MADMANS ESPRIT 公式サイト

*1 Madmans Esprit – ページ情報 | Facebook

*2 AEA zine: Band Interview: MADMANS ESPRIT by Dave Wolff

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