VA​-​1つの音は無限大の構成​(​Dekishi​-​017)

溺死レコード『VA​-​1つの音は無限大の構成』​(​Dekishi​-​017)

前書き

世の数あるシンセサイザーは、サイン波やノコギリ波といった基本波形をこねくりまわして音を作っています。そのこねくりまわす対象をドラムのキックひとつにしぼったのが本作『1つの音は無限大の構成』です。

コンセプトなしでも十分楽しめる内容の作品が集まっていると思います。それにもちろん、もととなるサンプルの「低域の打撃音」という特徴が、音や曲にどう反映されるのか、あるいはされないのかを頭に置きながら聴いてみても楽しめると思います。

以下、全8作品および製作者のかたがたの他の作品に対する感想を紹介がてらに述べていきます。

a1426p「Rehabilitation」

意識の奥深くにいるようなダークなエレクトロニカ/アンビエント。サンプルの低音域を活かした重厚な雰囲気のなかに響く、鐘のような音といびきのような連続打撃音のからみが気持ちよいです。これは瞑想がはかどる……。

音楽系個人サークル「ぺんたす」で活動しており、SoundcloudBandcampでンギモヂイイアンビエント作品を配信しています。

また、『UNNOISELESS NOISE COMPILATION 002 -NOISE CELLS-』という<「1秒ノイズ(細胞)」311曲(311秒ノイズ)のコンピレーションアルバム>にも参加されています。企画意図の明確な実験的コンピという点で本作と共通するところもありますので、ぜひどうぞ。

Reveriemulator「AtDcStRls2」

おもちゃ箱のなかの人形たちが合奏しているようなテクノ。キック音の特性は活きたままにカラフルに仕上がっています。後半リズムのからみが変わり、その若干のズレがなんともいえぬ焦燥感につながっています。

2015年から定期的に音楽作品を配信しています。打ち込みやオルタナロック、ドリームポップといろいろです。目下最新作である下記作品は、バンド編成サウンドに幻想的な電子音がからむかっこいいインストゥルメンタルになっています。自身が手がける絵も少女夢想な趣のすてきな雰囲気です。

虚夢「いつ始めるんですか?」

抑揚と低音の効いたダークアンビエント。低域の打音がゆっくりと密度と混乱を高めていって最後に中域のそれが登場する構成で、少ない音色できっちり展開し、世界が作られています。曲名もあって、なにか身体の芯から急かされている気になります。はい、やります、やります、すいません。

<他に行き場のないアーティストたちが集まり、リリースしていく>ネットレーベルである溺死レコードの主であり、本作の企画者です。2015年に迷われレコードより『彼方にいる・・・?』を発売している(AmazonとかdiskUNIONとかで検索してもでてきます)ほか、自身のレーベルからは茨城市の宗教関連施設に接したことに着想を得た『Enlightenment from Ibaraki?』など、多彩な雰囲気のよきアンビエントを配信しています。

DJ6月「6O9ne5s2an2p10l2em」

せわしなくいろんな音が往来するエレクトロミュージック。低域とメロディラインを跳ね回るように担うベースの周囲を、太ったり痩せたり尖ったり増えたり連なったりしたキック音が縦横無尽に駆け巡ります。左右パンや反響による空間構築がすごい!(具体的に表現する力量をもっていない)

2015年6月17日より2ndアルバム「バッテンシャーク」を発売中。ポエムコアの始祖BOOL氏や八十八ヶ所巡礼のマーガレット廣井氏(摩阿訶烈音名義)をはじめ、豪華メンツが参加しています。レーベルサイトのほか、各種通販サイトからも購入できます。私買いましたのでみなさまもぜひ。(でもまだ届いてません……)

ちなみに「6k9o5wa2y2h10o2re」という似た題のゴリゴリのハードコアテクノが収録されています。何か関係があるのかもしれません。

Negative headphone「ninja drummer」

ゲーム音楽をおもわせる弾幕テクノポップ。持続音や人工音声風からギター風まで、もうこれ基本波形からふつうに作ったのと遜色ないのでは、というかんじで、原音縛りを意識させない多彩な音色が次から次へと登場します。これが“ninjutsu”なのか……すごい……。参加者募集時に見本としても公開されていましたが、まさに仮題サンプルドラムコンピのサンプル的存在です。ちなみに96kHz/24bitのハイレゾ音源です。

メタルやダンスミュージック、癒し系までさまざまな曲をSoundcloud上で公開しています。この手広さ。曲に感じる多彩さもうなづけます。メタル寄りの『I dance with the deads』、エレクトロ寄りの『imagine』のほか、多くの曲が無料配信されています。

usual name「Shit」

ノイズが動きまわるエレクトロミュージック。一定間隔でたんたんと鳴るキックを中心にノイズが無機的に後方へ抜けていったあと、トライバルな打音と少量のパルスが抑揚を効かせて踊ります。最後にはノイズが戻ってきて、よりうるさく多層的に、今度は生きているかのように空間を飛びまわります。なにかの誕生を感じさせるその展開によって、同じノイズ音でも前半と後半でまったく違った意味で響いてきます。うなりました。

加藤学氏と中村修人氏による音楽ユニットです。さざまな形態で作られた作品を公式サイトから配信しています。さしあたって『homecoming』を聴いてみましたが、すげぇかっこいいノイズロック/ノイズコア/その他もろもろでした。マリア観音のかたなどをゲストミュージシャンとして迎えているようです。サイトデザインもとてもかっこいいです。

Tahawas「Kick on a complex」

アフロを感じるダンサブルなテクノです。丸みを帯びたシンセ風の音やスクラッチ風の音、ウホみのあるベース音など進化した原音のまわりを細やかな音が装飾するテクノ熱帯雨林です。この構築のうまさと起承転結!君と踊りあかそう日の出を見るまでという感じです。

ちなみに、まるで最初からそう作られていたかのようなハマり具合で、前曲から間髪いれずに開始されます。虚夢氏のナイスな曲順選びです。

Soundcloudで曲を配信しておられます。現在はヤギになられているようで、そのようなテーマの曲もあります。かっこいい……。

Rhangylus「インダス川の踊る死体」

うるさい系ジャンルの独りバンドマンが手探りで作ったエレクトロミュージック。私の作品です。恐れおおくもトリです。さらに恐れおおいことに、Stockhausen風、Oval風を目指していました。でも結局ギター風サウンド主体なあたり、うるさい音楽好きの業はぬぐえなかったようです。

リズムが破綻するかしないかぎりぎりのところを攻めた結果、聴いている私の体調によって「ぎりぎりだ!」、「ぎりぎりでさえない……」となるぎりぎりのリズムになっています。ひとによっては完全に破綻しているように感じるとおもいます。それもあって、曲名に「踊る死体」という言葉を使いました。

「インダス川」には、“インダストリアル”が“インダス”と略されることに対しての「川かよ」という常日頃の想いと、本作からただよう若干のインダストリアル感とトライバル感が込められています。あと前半ちょっと水っぽい。

「インダス川の踊る死体っぽい!」、「いやこれセーヌ川で憂う少女でしょ」などさまざまな感想があるかとおもいますが、ともかく聴いてくださりありがとうございます。バンドの作品も聴いていただけるとうれしいです。ただいま2ndアルバム絶賛作成中です。こうご期待!

最後に

キックのみをやりくりして曲を作るのに、ふたつのやりかたが考えられます。ひとつは、リズムや低域などによって、サンプルの特性を十分に活かしてやるもの。もうひとつは、サンプルの特性がわからなくなるほど加工するもの。前者は少ない音で表現する構築力が求められ、後者は癖のある音を他の形での実用レベルにまで加工する編集技術が求められます。

そのどちらをどの程度、どういう形で出すのかに、参加者それぞれの音楽的背景が表れていることがわかります。たとえば、ダークアンビエントという「環境を構築する音楽」を得意とする虚夢氏は、前者的やりかたを中心にして音世界を作りあげていますし、広いジャンルを数多く手がけてきたNegative headphone氏は、音が持つ可能性を加工によって存分に引き出しています。他のかたがたも同様で、全員異なる表情の音楽になっています。

「ある音から何をどう引き出すか」というのは、何も作り手に限った話ではありません。キック音から、それを加工した音から、あるいは「キック音のみを加工して作られた」という情報から、何を見出すかはひとによって違って当然です。「インダス川と踊る死体」は、比較的無作為に電子音を配置していますが、その無造作な配置のどことどこに繋がり――リズムやメロディを感じるのかに関して、あなたと私が同じであるという保証はどこにもありませんし、同じである必要もありません。

『1つの音は無限大の構成』。我々がキック音から無限大を引き出すとき、我々の感覚の無限大もまた、引き出されているのです。

主催者の虚夢氏、参加者のかたがた、聴いてくださったかたがた、ありがとうございました。まだ聴いてないかたは、ぜひ聴いてね!

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