modern_post-metal

ヴィジュアル系が積極的に影響受けて欲しいジャンル、ポストメタル。

前書き

ヴィジュアル系は良く「何でもあり」と評されるジャンルで、幅広い音楽性を含んでいます。しかしながら、ある程度の規模を形成するようなサブジャンルに関しては、メインのファン層である10代女子が好むような若さのある音楽性が強く反映されているのも事実で、世界的に流行ってはいるもののまだ充分に発育していない要素が多く残されています。

そうしたものの中で、このジャンルの大きな流れのひとつであるメタルの観点から、ぜひ取り入れて欲しいジャンルがあります。それはポストメタルです。

ポストメタル?

ポストメタルとは簡単に言うと「空間や音響を重視した感じのメタル」を指します。ネオクラシカルやプログレッシヴの技巧、スラッシュの刻み、デスやブラックの密度、ニューメタルのグルーヴなどの次に現れ、かつポストロックと共通した部分が多いことからポストの名が冠せられました。とはいえポストメタル自体かなり広い音楽性を内包するジャンルで、適当に話を進めるとジャンルおじさんに怒られてしまいますので、今回はその中でも主要な群となっているNEUROSISやISIS (the band) 的なやつをポストメタル属アトモスフェリックスラッジメタル種と定義して話を進めていきます。

アトモスフェリックスラッジメタル?

スラッジメタルとは、ものすごく簡単に言うと、従来の攻撃的なハードコア部分を持ちながらミドルテンポ以下にも強く焦点を当て、歪んだギターをザクザクやりながらウワー!とガナったりする音楽で、MELVINSや、90年代初頭のルイジアナ州のバンド群(CROWBARやEYEHATEGOD)あたりから認められだした形式です。

CROWBAR – “High Rate Extinction” (25th Anniversary Tour)

そのスラッジメタルをアトモスフェリックにしたのがアトモスフェリックスラッジメタルです。基本的な特徴はそのままに、アップテンポパートや喉の上の方で濁らせる高音シャウトで表現されるような外に向いた敵意や、跳ねるドラミングやギターの刻みが作り上げるグルーヴといったマッスルを削ぎ落とし、コード感のある重低音リフと抑揚の効いた単音で抒情的な雰囲気――アトモスフィアを形成することに重きを置きます

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アトモスフィアの例

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マッスルの例

それがなんでヴィジュアル系?

ヴィジュアル系には黒系と白系という分類があります。ここでは厳密な分類としてではなく、いち要素としてその性質を取り上げます。黒系は「お前らカガッテゴォォイィィ!」的MCのやつ、白系はなんかめっちゃナヨくて自分の世界観に浸ってるやつ程度の認識でお願いします。前者はメタル/ハードコアを主体として重さや速さを重要視しており、一方後者はそのセカイカンを現すために空間系エフェクトを多用します。

ここで黒系をスラッジメタル、白系をアトモスフェリックと対応させて考えてみましょう。おやおや、なんとしっくり来ることでしょう!そう、ヴィジュアル系にはポストメタルを形成する基礎となるマッスルとアトモスフィアの両方がすでに備わっているのです!

ISIS

それでは、ポストメタルという言葉に対する印象を決定付けた彼らを紹介しましょう。ISIS(the band)です。

ISIS “20 Minutes/ 40 Years” Official Video

彼らの音楽性は、4つ打ち定速シンバル+単音抒情メロディ(静)~重低音ガナリ(動)+「あのリフ」という簡略されたアイシスラッジ形式として、フォロワーたちに多く利用されました。形式化されているということは、パクリやすいということでもあり、その事実はこれからポストメタルに参入しようという人々にとって有利に働きます。特に歌モノとしての側面が強い『In Absence Of Truth』収録の「Holy Tears」などは、歌謡成分の強いヴィジュアル系というジャンルの良い指標となるでしょう。

ISIS :: HOLY TEARS

※「就活に失敗して絶望した若者が聴く音楽」ではない

また、形式化された音楽を後続がなぞった際に発生する「もういいよ」感は、ヴィジュアル系が、という意外性と、結局は歌モノに収束しがちなその感性が払拭してくれることと信じています。

ISIS :: LIVE IN PARIS 2007

聴いていただければわかるように、いわゆるメタルで要求されることが多い速度や正確さといった技術力よりも、変な音や劇的な展開といった“雰囲気力”が重視されます。上記ライブで演奏されている「False Light」(『Oceanic』収録)のマッスルパートは、ニューメタルの重低音リフばっかりやっていた人間でもさほど苦労せず演奏できそうな単純さです。もちろん、この重低音が持つ意味はニューメタルのそれとは明確に異なるのですが、音楽技術的には大きな差はないでしょう。技術力がそれ単独ではなく最終的な表現へと結び付けられるというのは、メタラーたちからヘタクソとののしられたときに世界観という言葉で反論したいヴィジュアル系にとって嬉しい事柄です。

ちなみにポストメタルはミドルテンポ以下が主で、さらにポワィーンというギターで悦るアンビエント部分があるため尺が長いことも特徴のひとつです。そして長尺曲はヴィジュアル系の得意分野でもあります。プロモーションの関係で曲の長さが忌避されがちなシングルにおいて、パッと思いつくだけで下記のような曲たちがありました。10分以上も狂気のピアノソロが続くX JAPANの「ART OF LIFE」、その年に出たシングルの中で最も長尺だったDIR EN GREY「アクロの丘」、そしてヴィジュアル歌謡ジャパパンク総決算MERRY「激声」……。そろそろ70分1曲2枚組みあたりが待ち望まれるところです。

ISIS Grinning Mouths Live

公式アカウント動画の再生数少なすぎなのでもっと貼っておきますね。アリガトウトウキョウ。

ISIS Celestial 08.26.2001 from “Clearing The Eye” DVD

ズッズッズッズッチャカチャッチャカチャッ イェーイェーウォーウォー

HEAVEN IN HER ARMS

本当はポストメタルではありませんし(でもアトモスフェリックスラッジなら許されそう)、国産激情ハードコアバンドあるいは最近固まりつつある概念であるブラッケンドハードコアバンドなどと紹介したほうが良く、さらにヴィジュアル系と並べたり何かしらのジャンルに入れたりすると一部ファンの方々の怒号ゲージが一気にマックスまで上り詰めそうなので恐ろしいのですが、ともかくもうひとくみ、日本のこの分野において人気実力ともに随一の、このバンドを紹介しておきましょう。以下の彼らのセカンドフルアルバムの情報を見てもらえればここで取り上げる理由がわかっていただけるかと思います。

『幻月』
1. 46×
2. 臨界の追憶
3. 罹病は白い柘榴
4. 翡翠葛
5. 反響した冷たい手首
6. ハルシオン
7. 螺旋形而蝶
8. 真理

ね、ブルっちまうほどヴィジュヴィジュしいでしょう?ネオヴィジュアル系の筆頭the GazettEの「黒く澄んだ空と残骸と片翅」なんかを混ぜても一瞬バレない程度にはヴィジュヴィジュしいでしょう?言葉選びのセンスに関してはその筋のヴィジュアル系バンド有象無象と比べてかなり高いことを差し引いても、やはりここにヴィジュアル心を感じ取らずにはいられないでしょう?

楽曲もその黒々しい言葉たちに見合ったものになっています。コード感のある重低音リフと抑揚の効いた単音で焦燥感のある重苦しい雰囲気――アトモスフィアを形成する……ってそれポストメタルと似てる!そういうわけでISISと彼らの差を明確に感じ取れるようになればもうアトモスフェリックスラッジセンサーは十二分に会得したと言えるでしょう。

Heaven in her Arms – Butterfly in Right Helicoid

幻月 (CD)

ともかく、言葉だけでなく曲も、ボーカルの絶叫を除けばヴィジュアル系バンドが演奏しても何ら齟齬を起こさないものとなっていることがわかっていただけますでしょうか。4分30秒ごろからのジャリジャリギタートレモロによるお耽美メロディ+4つ打ちシンバルツーバスドコドコときどきツタツタ疾走なんか今すぐにでもパクれる!語りがあるところもソレっぽい!

Heaven in her Arms – Moon Get Distorted By The Cornea

君と二人で、また……また……あの丘で……(ここで美麗なギターソロが入る)

ポストメタルっぽいヴィジュアル系

今度は「ポストメタルっぽいヴィジュアル系」を軽く紹介していきましょう。

L’Arc~en~Ciel「浸食 ~lose control~」

以前「ヴィジュアル系ポストメタルください」とツーイッタで発言した際に出てきた曲ですが、なんだこれもうヴィジュアル系ポストメタル完成してんじゃねえかってくらいです。アトモスフェリックテロリロリン→デッ! デッ! デ-テ-゙デ!の流れはまさしくソレですし、刻みもISISっぽいですし、白系の元祖と呼ばれることもある彼らがその持ち味を発揮した演奏から黒系っぽい激しさを持つリフに移行するところなんかは本稿の前書きと合致します。

ムック「輝く世界」

彼らの鈍足曲はどれもスラッジメタルっぽいのですが、その中でもひときわアトモスフェリックスラッジくさいのがこの曲です。サビのあとの「デデッ デデッ デデッ デッデー」に非常にアイシスを感じます。

また、「志恩」などはNEUROSISのあの名盤『Through Silver in Blood』を彷彿させるズンドコ民族ヘヴィ具合なのであわせて紹介しておきます。

the GazettE

上記2バンドはもう二度とこのような曲をやらないことがほぼ決定付けられているのですが、現在絶賛進行中でこのジャンルに最も近いところにいるのが、the GazzetEです。えっ!?昨年の超名作『BEAUTIFUL DEFORMITY』で「ビョ-ビョッビョビョビョwwwビョッビョッピョ—–↑↑wwww」とあんまりもあんまりなEBMの取り込みをするチャラさと(「MALFORMED BOX」~「BEAUTIFUL DEFORMITY」)13年も経ってもなお初期SLIPKNOTリスペクトな曲(「黒く澄んだ空と残骸と片翅」)を演奏したりする進展のなさを披露した彼らがポストメタル!?と思われるかもしれません。しかしながら、当該作のシメである「TO DAZZLING DARKNESS」~「CODA」で見せるズンドコドラムと情感溢れる重低音はまさしくポストメタルのソレなのです。

彼らのこうした側面は、メジャーデビュー作『STACKED RUBBISH』収録のムック感ある超名曲「千鶴」で開花したもので、当時から事あるごとに「お願いだからポストメタルに寄ってください」と言ってはいるのですが、ニューメタル&清春リスペクト(『TOXIC』、『DIVISION』)をしたりAre you motherfuckers ready?(「DEVOURING ONE ANOTHER」)したりで声は途切れ景色は色を失くしていくばかりです。(結局ポストメタルをやることはないという結末)

DIR EN GREY「Lotus」

DUM SPIRO SPERO (CD)

とはいえもちろん、しばしばthe GazettEの元ネタとされる彼らもポストメタル的側面はもっていますし、実際にISISなどに影響を受けていてもおかしくはないです。しかしながらその展開やリフの刻みはポストメタルというよりも、本人たちが聴いていると公言している元プログレッシヴデスメタルバンドOPETHに近いものがあります。さらに「DIFFERENT SENSE」や「SUSTAIN THE UNTRUTH」、ウェーブした髪でギターソロを引きまくり氏のことを考えると、しばらくはDEATHSPELL OMEGA的アヴァンギャルドさやMESHUGGAH的マスさ、OPETH的プログレッシヴさを主とするのだろうという予感がします。

DIR EN GREY – SUSTAIN THE UNTRUTH (Promotion Edit Ver.) (CLIP)

「叫んでばっかりで歌詞が聞き取れません」

日本のそこそこ売れる音楽の中ではかなり早い時期からシャウトを積極的に使っていたヴィジュアル系ですが、なぜかミドルテンポ以下になるととたんに叫ばなくなります。先に紹介した曲でも基本骨格中に叫びを取り入れているのは「志恩」くらいです。ポストメタルはガナり声がひとつの特徴なので、上述したような曲たちを参考にハードコアな叫びをのせればかなり近づいていくのではないでしょうか。ファンが歌詞を重視する分野なため「叫んでばっかりで歌詞が聞き取れません」みたいなことを言ってくるひともいるかとおもいますが、そういうひとはそもそも対象外なので無視しておきましょう。

来たれVisual-keic Post-Metal

ヴィジュアル系にもメジャーどころで既にポストメタルっぽい作品はありますし、アトモスフェリックという要素は今年大きな話題となったsukekiyoが聴かせたものでもあります。だからこそこの記事を書いたわけですが、とはいえ明確に当ジャンルに影響を受けたと思わしきバンドは出てきていません(すでにやってるひとたちがいたらぜひ教えてください)。そもそも日本でポストメタルをやってるひとたちがまず数えるほどしかいないだろうのにヴィジュアル系がやっている可能性は低いんですが、逆に言えばそうなったらすげえおもしろいじゃないんでしょうか。

というわけでこれを読んでポストメタルに興味が出てきた非ポストメタルファンのヴィジュアル系バンドメンの方々やそれを志している面々は、音楽サイトGrumble Monsterの下記記事を読んでその重厚かつ芸術的な世界に浸ってみてください。そしてできることならばそれを自身のバンド活動に反映させてください。当サイトでは全力で応援していきますし、ヴィジュアル系にも好意的な先方も取り上げてくれるとおもいます。

http://grumblemonster.com/column/postmetal/個人的ポストメタル探求 ~重厚かつ芸術的な世界~ : Grumble Monster

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