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THOU『Heathen』:鈍重を極めたその先の世界

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“ポスト化”

“ポスト化”。THOUの4年振りの新作は、有り体に言ってしまえばそういうことになるだろう。ポスト化を感じる大きな要素は豊かな叙情性だ。これに寄与しているのは大きく2つ。

まずは静的なパートの増加。#2「Dawn」のような間奏曲が3曲ある他、長尺曲のなかでも大々的に使われている。#8「Immorality Dictates」では曲のほぼ半分をアンビエントパートに注ぎ、後半のヘヴィパートへと繋げている。

もうひとつはギターメロディの変化だ。前作でもメロディは多く見られたが、情感がさらに増している。そうした特長を持つ2本ギターの掛け合いが生命力を生み出し、作品を感情豊かなものにしている。

“重さ”への自信

ポスト化は往々にして音や雰囲気を軟化させるが、彼らにおいてはそうではない。

ギタリストであるAndy Gibbsが<(…) we’ve definitely been on a straight-ahead course towards heavier and heavier songs from the inception of the band to the present, (…)(バンドを始めたころから現在まで、間違いなく重いほうへ重いほうへ向かっています)>*と述べている通り、彼らの根底に音の重さがあるのは確実だ。だとすればギターが醸す叙情性は、重さを充分に極めたからこそ手を出した“次の段階”であることがわかる。だからこそ叙情性の増加が単純な軟化へと繋がっていないのだろう。

鈍重を志しながらここまで大きくメロディを使ったことは、彼らのヘヴィサウンドへの自信の表れでもある。それはAndyの<(…) I’m not worried about us sounding heavy enough, so my attention is on other things.(音の重さに関しては充分心配ないくらいだとおもっていて、その他の部分をどうするかを考えています)>という発言からも伺える。その自信を支えているもののひとつが、サウンドエンジニアであるJames Whittenの存在だ。彼は目立った作品を手掛けてはいないが、THOUに関しては付き合いが長く、Andyに「おれたちの魔法使い!」と言わせるほどに信頼されている。裏方と安心して音作りを任せられる関係を築いたことで、彼らはさらなる挑戦に踏み切ることができた。Steve Albiniや、最近名を上げているJens Bogrenといった名人と仕事をすることは非常に有益なだろう。そして、THOUとJamesのような一対一の出会いもまた、バンドにとってかけがえのないものになる。

コンセプトの一貫性

“ポスト化”が突然起こった出来事ではなく、バンドの歩みの中で起こった当然の進化だと言う印象を我々に与えるもうひとつの要素が、ボーカルで作詞を手がけるBryan Funckが描く作品コンセプトだ。これまでに出したフルアルバム作品には一貫したテーマがあり、互いに関係していると彼は語る*

Tyrant, Peasant and Summit as a from-the-hip critique of the dominant social order and class system, and then Summit, Heathen and Magus being a manifesto for the destruction of that system and the creation of something new.

Tyrant、Peasant、そしてSummitは、支配的な社会秩序や階級制度に対する衝動的な批判、Summit、Heathen、そしてMagusはそれらの制度の破壊と新しい何かの創造の宣言をテーマにしています。(筆者註:Magusが何を指しているのか不明)

Tyrant is also about sleep, being unconscious, unaware. Peasant is about death, being inextricably chained to servitude and anguish. Summit is about the possibilities within and outside of those limitations. Heathen is about waking up to and making use of those possibilities

さらに、Tyrantは睡眠――無自覚、無意識になることを、Peasantは死――逃れられない苦悩や隷属に束縛されることを、Summitはその中での可能性や限界の先を、Heathenは目覚めやそれらの可能性の行使に関してを扱っています。

インタビューでの発言や、あるいは単純にその発言量を見る限り、彼はバンドの方向性についてかなり考えているようだ。作曲はしていないとはいえ、曲に関して当然口を出しているだろう。今回のように曲調の変化があったとしても、小難しい一連のコンセプトが反映された彼らの作品が統一された色を持つのはもっともだ。

もちろん、それはそのコンセプトが曲のなかで活きているからこそである。人間として生きるうえでの苦悩を切り開こうとする歌詞は、本作の音作りに合致する。ギターとベースが一緒になって低音域を埋める、Sludge=ヘドロの中で這いずるさまを想起させる音のなかから、空間を埋める叙情的なメロディが浮かび上がる。それは人生の苦痛でもがき苦しみながらも、その内や外双方での何かの可能性を見出そうとする様子にぴったりと当てはまる。

Bryanのボーカルがまたこの作風にあっている。この手の音楽では珍しくはない、喉のうえのほうで鳴らすようなダミ声だが、音の乗せ方が特徴的だ。ドラムと同期した打楽器に近い配置ではなく、そのまま普通のボーカルに置き換えられるような位置で発声している。ギターのメロディの多さと合わさり、汚い声でありながら非常にメロディアスに聴こえる。作品コンセプトを伝えるに足る叙情性を持っている。

Heathen

作詞、作曲、演奏、音作り。その全てが同じ方向を見て作られた本作。鈍重スラッジを極めた末の“ポスト化”には、聴き手を圧倒し納得させるだけの凄みと一貫性がある。芸術系スラッジメタルのひとつの可能性を示した秀作。メロディアスなのでふだんこの手の音楽を聴かないひとにもおすすめできる。Bandcampならば任意の金額で購入できるので、ぜひ。

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