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VINDENSANG『Alpha』:ポスト“ポストメタル”の息吹を感じる

ポストメタル王位継承者は誰だ

2010年、ISIS王崩御。続く2012年に、王を失ったHYDRA HEAD王国は9年間の歴史に幕を閉じた。のちに言うポストメタル王位争奪時代の始まりである。

「オレが王位継承者だ」。そういって世にはびこったアイシスラッジバンドたちの存在を、ポストメタル的意味で無に返す覇王が現れた。それがペンシルバニアの3人組、VINDERSANGである。

アイシスラッジ

古代NEUROSIS王の導きのもと、リフやツーバス、ギターソロ、メロサビ展開といったものをそぎ落とし、不定形な感情のカタマリを形成した先代のISIS王は、メタルの“メタル性”を打ち捨てたという点でまさに“ポスト”メタルだった。そして一度殺したその体に、歌とツーバスの採用という形で新たに肉を形成した『In The Absence Of Truth』、そしてその肉の強度を保ちながら再度音を空中へ拡散した『Wavering Radiant』でポストメタルは完結した。ISIS以降の“ポストメタル”チルドレンたちに出来ることといったら、ISISが捨てたものをわざわざ拾ったり、別のものと混ぜたりしながら、ISISの“ポストメタル”をなぞることしかなかった。

私はポストメタルが大好きだし、NEUROSIS、ISIS以降のバンドの中にはすばらしいバンドがたくさんいる。それでも彼らに対して「アイシスラッジ」と皮肉混じりに言いたくなるのは、結局彼らの音楽が“ポストメタル”でしかないからだ。

だがしかし、VINDESANGはそうではない。彼らの曲は全くISIS的ではない。ポストという言葉が本来の意味通り働く、ポストメタルである。

アンビエントバンド

ここまでポストメタルポストメタル言ってきたが、彼らはポストメタルを自称してはいない。

Vindensang is an American ambient band with strong influence from post-rock, experimental rock, and experimental metal. They have become known for their conceptual, genre-bending music and for capturing and re-producing atmosphere in sound.
VINDENSANGはポストロックやエクスペリメンタルロック、エクスペリメンタルメタルに強く影響を受けたアメリカのアンビエントバンドである。コンセプチュアルでさまざまなジャンルを繋ぐその音楽性と、アトモスフィアをその音の中に捕え、再生成することで知られている。

アンビエントバンド、だそうだ。とはいえエクスペリメンタルメタル――ポストメタルとほとんど同じと考えて良いだろう――の影響を受けていると記されているし、その重苦しい雰囲気や低音の量、フレーズ、濁った声は間違いなくロックにはない類のものだ。

さて、上記の説明文は、彼らの音楽性を考えるうえで大いに参考になる。とりあえずアンビエントバンドというその名称と、後半のドヤ感のある文章をあわせると、かなり“アトモスフィア”に重きを置いていることがわかるだろう

VINDENSANG_member
おそるべきアトモスフェリックなメンバー写真

ポストメタルにおいて主に反響効果や持続音、あるいは音の隙間によって表現されるアトモスフィアというのは、当該ジャンルの音楽を形作るうえで重要な要素だ。したがって、NEUROSISやISIS、そしてその影響下にあるアイシスラッジバンドたちもその辺りに力を入れた音作りがされている。特にこのVINDENSANGは、そのアトモスフィアへのこだわりが故にその表現が徹底しており、そのことは、彼らがその他のポストメタルバンドとは一線を画している理由でもある。

それでは、彼らのアトモスフィアへのこだわりを見ていこう。

ギターリフの排除

ポストメタルはメタルとしての肉体を捨てている。メタルボディを構成する大きな要素のひとつがギターリフだ。従来のメタルとポストメタルでは、このギターリフはどう異なるのだろうか?おそらくメタル界でもっとも成功しているバンドのひとつであるMETALLICAの代表曲「Master of Puppets」と、初期ISIS王がポストメタルを覚醒した時期のを聴き比べれば、そのギターリフの意味が両者で全く異なることがわかるだろう。

Metallica – Master Of Puppets (Live)

ISIS :: HOLY TEARS


あまり適当な例ではないが公式動画はこれくらいしかなかった。

METALLICAを含む従来のメタルバンドにおけるリフの目的は“刻み”であったり“メロ”であったり“強度”であったりする。一方でISIS系列のポストメタルでは刻みやメロの意味が薄く、どちらかというとコードの響きやハーモニーを主体とした音響的アプローチを取っている。刻みやメロは断続的な音の連なりによって構成されるという意味でメロディ的であり、コードの響きは音の連なりなしに成立するため非メロディ的だ。ポストメタルバンドのギターにおける単独の音を研ぎ澄ます音響的アプローチを、このメロディ性の排除が一層引き立てている。

しかしまだ、従来のメタルとポストメタルのギターリフで共通している部分がある。強度だ。よく言われる静と動の対比を始めとして、ポストメタルではギターの強度が曲の展開におおいに利用されている。アンビエントパートで形成した感情の大気を、研ぎ澄まされたギターの響きで一気に爆発させる。ギターの強度はその起爆剤であり爆発そのものである。

だがVINDENSANGは、この強度すらもギターから排除してしまった。彼らはギターが爆発することを許さない。たとえ“動”の部分であってもだ。ギター強度の落差を最小限に抑え、なるべく音の響きで強弱を演出する彼らの曲は、従来のポストメタルよりも強く音響的でアトモスフェリックであると言える。

本作において、ギターはこうした歪んだコード弾きや反響発生の他、単音によるメロディ生成も行っている。しかしながらこのメロディも、上述の観点を踏まえて聴くと、なるほど、そのメロディではなく音響のほうが主要な意味なのかもしれない。

グロウル、お前もか

本作では、メタルバンドらしく、ボーカルにはダミ声が使われているが、それは叫びではなく語りの延長線上にある。同じ語りという範疇のなかで、声の歪み具合と感情の込め方でボーカルの強度を変化させている。場面にあわせて音の響きを使い分けるそれは、ギターが醸すアトモスフェリックに追従し、その感情を増幅するに足るものだろう

つまり、バンドとしての肉を形成する大きな要素であるボーカルもまたギターと同様に“音響”と化しているのだ。主役級の要素二つをともに音響的に用いるそのアトモスフィアへのこだわりが、彼らが単なる“ポストメタルバンド”ではなく、“アンビエント”バンドたる所以であると言える

それでも彼らはバンドである

GODSPEED YOU! BLACK EMPERRORやYEAR OF NO LIGHTといった一部のポストロック/ポストメタルバンドは、そのアート性を極限まで追求した結果、既存の意味での“バンド”から大きく逸脱した音楽性を獲得している。ギター、ベース、ドラムという楽器構成でありながら、メロディや合奏の力強さといったものは時折顔を見せる程度で、ほとんどはその音響を主体としたドローン/ノイズ/アンビエントな部分で構成されている。

VINDENSANGのギターが向いている方向は、間違いなく彼らと同様の非バンド的な境地だ。だが、彼らはやはりアンビエント“バンド”――あるいはポストメタルバンドでもいいが、そう呼ばれるに足る結束感を持っている。それを演出しているのが、音響に徹しているギターの代わりに力強く鳴らされるベースとドラムの低音部隊だ。

ベースは、音響に徹したギターを補うように、前述した従来のメタルリフ的な意味を持って鳴らされる場面が多い。ギターを自由にするためにベースがギターの役割も負うという手法はLUNA SEAでも見られるもので、それほど珍しいわけではない。

注目したいのはドラムだ。ドラム、クソうるさいんだこれ。ミックスを間違えたのではないかと疑うくらいの主役級の音量で、どかっと真ん中に鎮座している。このドラムがベースがリフの役割を担った際に発生する低音不足を補っている。ふつうこんなドラムの置き方したら他の演奏を覆ってしまって合奏が崩壊しそうなものだが、ギターはバンド感を放棄して中~高音域を漂う音響と化しているためドラムとは競合していない。ボーカルはそもそものパートとしての主張の強さがあるので喰われてはいない。ベースは、一応十分な量感を持っていることと、リフという主役級の役割が与えられているのでドラムとの合奏の体は保っている。

彼らはギターとボーカルという肉をそぎ落とした代わりに、ベースとドラムという骨格の力強さを高めた。そのことが彼らのバンド感を強固なものにしている。

エレクトロミュージック性

徹底したアトモスフィアへの敬愛とバンドとしての骨格の両立は、思わぬ効果を生み出している。それは“エレクトロミュージック性”である。ドカドカと鳴らされるリズムに、音響とメロディを奏でるウワモノが乗る。そう、それはまさしくエレクトロミュージックの構造である。ギターとボーカルが音響に徹したことでウワモノとリズムの対比が明確になったわけだ。

このエレクトロミュージック性は“反復に関する妥当性”と“チルアウト性”として本作に寄与している。ポストうんたら系バンドは、その長ったらしいアンビエントパートと冗長な展開からよく「かったるい」と評されることがある。その長ったらしいアンビエントパートにチルアウト性が、冗長な展開に反復に関する妥当性がそれぞれ充てられることで、そのかったるさを減衰している。

ポスト“ポストメタル”

VINDENSANG『Alpha』は、その徹底した音響へのこだわりによって、ドローン/ノイズ/アンビエントの感触を持ちながらも確実にバンドであり、さらに多少冗談も混じっているにしろエレクトロミュージック的でもある、まさにアンビエントバンドとして存在している。NEUROSIS/ISIS的ポストメタルの音像でありながら、その定型とは異なったアトモスフィアを内包している本作は、NEUROSISとISISのもとに生まれつつも、それらから完全に解放された意味でのポストメタルだと言える

形骸化しつつあった次期アイシス王位継承戦を一蹴し、新たなポストメタル王国の礎を築いた本作は、まさしくポストメタルの未来を感じる『Alpha』バージョンとでも言いたくなる出来だ。今後おすすめのポストメタルバンドを聴かれたらぶっちぎりでVINDENSANGと答えていくし、胸をはってポストメタルが好きだと言っていきたい。そんな会話する機会はない哀しみとともに。

謝罪

本作を紹介するにあたり「恐るべきポストメタルおじさんたち」という語句を使っていたのだが、どうやら彼ら、20代半ばのようだ。全然おじさんじゃない。謹んでお詫びしたい。中心人物のJ. Neblockは1990年生まれとのこと。なにそれ天才かよ。もうさっさとDaymareあたり契約しておいたほうがいいんじゃないっすか。新しいものへの感度が高いんだから