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ALTAR OF PLAGUES『Teethed Glory and Injury』:破滅と終焉の感情再起(Black Metal)

無機的側面と有機的側面

「Mills」――不安げなストリングスのドローン、無表情な民族的打撃音、呻く重低音。それらが混然一体となってひとつの世界を構築するこの曲。その拍動の高まりののちに開始する「God Alone」は、まるで警告音のようなギター音で幕を開ける。コードチェンジを避け、電気信号のように同じフレーズを繰りかえすギターワークは、本作の随所で見られる特徴的な表現だ。我々に非メタル的な無機質さを想起させるこの手法は、GODFLESHや初期ISISでよく聴かれた。GODFLESHはその無機質さをインダストリアルな硬質さへと結びつけ、ISISはアトモスフェリックな精神性へと結びつけていった。そういえばリフの意義をリズムと捉えたDjent勢もこの並びに入るかもしれない。

それでは彼らの場合はどうだろうか。とりあえずギター以外のパートに耳を移してみよう。まずはドラム。ブラックメタルバンドとしてのブラストビートは目立つものの、ギターとポリリズミックかつミニマルに絡むあたりはDjentのそれに近い。にもかかわらず正確さよりも揺れを優先しているのが特徴で、全体のなかでは有機的に機能している。

つぎにボーカルだが、ブラックメタル特有の喉をつぶしたダミデス声が使われている。場合によっては人間ならざるものを思わせるダミデス声だが、曲の高まりにあわせて祈りにも似た絶叫に変わるところもあり、そこには明確な人間性がある。

ここでもう一度ギターに戻ってみよう。前述のフレーズのほかに、DEATHSPELL OMEGAを思わせる音程のゆらめくギターも随所で見られる。核となる2種類のギターは無感情さと不安定さで互いに異なる方向を向いている。

さて、再度ひとつひとつに目を向けてみると、なるほど、全てのパートが、無機的な、非人間的な冷徹さを基本としながらも、確実に有機的な、人間的な豊かさを持っている。これは果たしてどういう意味を持っているのだろうか。

それはアルバムを通して聴くと見えてくる。

“感情”の再起

「Mills」――一見別々に思われるその要素は、作品の冒頭で粉々にかき混ぜられている。その結果生成したコレは、果たして何者でもない“混ぜ物”であったのか。「A Body Shrouded」―モノクロに覆われひたすらに暗澹として無表情だったソレは、「Burnt Year」――燃え盛る時代によって非業の絶叫を上げ、「A Remedy And A Fever」――救済と熱を求めて祈りのコーラスを唱える。「Tweleve Was Ruin」でそれまで沈黙を保っていたメロディが浮かび上がり、最後の「Reflection Pulse Remains」ではポストメタルにも通じる叙情性を見せる。

そう、本作は後半に向けて音の“感情”が豊かになっていく構成になっている。感情に関してひとつの連続した意思がそこにある。つまり前述の無機と有機は、独立して存在しているわけではないし、別々の働きをしているわけでもない。ひとつの音のなかの無機的要素と有機的要素、どちらが強いかということだ。作品が進むごとに段階的に取り戻される無表情のなかの精神性は、作品全体としてのクレッシェンドとなって働く。到達点である「Reflection Pulse Remains」のトレモロに含まれる非業は、「God Alone」の無慈悲な強度を持って我々の心に侵入する。

このようなアルバム全体で長期的な盛り上がりを見せる作品はどうしても冗長になってしまい、そのスジの人以外はダレてしまいがちだ。しかし本作は、こうした49分の流れが各曲でもある程度コンパクトに示唆されている点で優れている。示唆、という点が見事だ。それぞれの曲で浮かび上がる有機的要素は同じものではなく、またそれによって意味の強さも変わる。徐々に有機的強度の高い要素を採用し段々感情を豊かにしていく曲は、それ自体がそれぞれ異なる意味での有機的な盛り上がりを見せながらも、全体として「段階的に有機的になっていく」という印象を少しずつ強めていく。

終焉のパルス

「“感情”が豊かになっていく」、「有機的になっていく」というと何やら前向きな印象も受けるが、実際は真逆で、これは破滅の物語だ。くだらない日々の繰り返しを無表情でやり過ごす我々が、何らかの間違いで鬱屈したその精神を取り戻しその身を蝕んでいく。最後に途切れるパルスは、自らの鼓動の停止。それは精神の死か、それとも肉体の死か。いつ何時自らが精神を病み、その身を終えるか、誰も知るすべがないことに思いを馳せよ。

ALTAR OF PLAGUES。厄災の祭壇から孤高の神がもたらす最初で最後の警鐘。本作は、2013年に、いや、ブラックメタル史にその名を残す作品だと確信している。

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