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THE EXPLORATION『Demography』:閉塞空間と焦燥感。(Indie Rock)

控えめなドラムに余韻たっぷりの弦楽器が情感たっぷりに絡みあう。楽器演奏はtoe以降のジャパニーズインストロックに近い音だが、そこにポストハードコア風の朗読歌唱が乗るのが特徴的。

インストロックで想起される感情はどちらかというと静的で落ち着きのある感傷だ。一方でポストハードコアのそれは起伏のある動的な焦燥感である。ふたつの感情は基本的に異なる方向を向いている。その二つが本作においては違和感なく混じりあっている。理由としてはその録音状態にあるだろう。本作の録音状態はオーディオ的に言えばかなり悪い。全体的にこもっているし、所々クリッピングが起きている。何より全体を通してホワイトノイズが鳴りっぱなしだ。だがそれが逆に、作品全体に閉鎖的な空間性を付与している。きちんとしたスタジオで、高価な機材を使った録音ではない。こじんまりとした部屋で、安物のMTR一台で宅録した、そういう閉塞性だ。そしてその閉鎖空間に前述のふたつの感情が閉じ込められることで、異なる感情に「一人の人間の感情」という共通性が付与されている。

そしてその共通性は、ただ二つを違和感なく混ぜるだけではない。歪んだギターや手数の多いドラミングで演出される焦燥感。それは音として明らかに開放力がある。そこでの焦りは行動に繋がる。だが我々が感じる焦りは、そうした類のものだけではない。日々機械的に生きているなかで、部屋のなかでジワリと心を刺す不安。行動力なき焦燥感。静的な閉塞性の中で表現される本作の焦燥感は、そうした不安に見事に合っている。

さらにもう一点。ファッション性について。技術の進歩によって個人でもそれなりの制作環境を整えられるようになった。それに反発する形で、粗い録音を評価するような層も出てきている。そんな時代なので、こうした宅録感のある作品にはある種のファッション性、すなわち音楽的な思想や立ち位置を感じやすくなっている。本作では限定カセット版が発売されていることからも、彼らがアナログ音質にこだわりを持っていることがわかる。だが本作にはそうした「アナログ志向」的ファッション性は強く感じられない。それは、録音の粗さが個人の感情という作品の表現レベルに落とし込まれているからだ。私はファッション性それ自体を問題視しているわけではない。ただ、閉じこもった感傷にとっては雑音だ。だからこそこのファッション性の無さは本作にとって良い働きをしている。

さて、本作の表題は『Demography』。人口統計学。人のような形をした建物のなかに街があるアートワーク。街は夜だ。ひとつひとつの曲名からも、本作を聴くにあたって閉塞性というのがひとつの重要な観点にはなりそうではある。ただ歌詞が公開されていないためこれ以上はなんとも言えない。

日々怠惰に過ごすことを受け入れてはいるが、何かしらの不安も感じている。そういう人にはぜひ勧めたい作品。もちろん音楽自体としてもなかなかおもしろいので、インディ系やポストロック、あとポストハードコアなんかでも好きならぜひ試聴してみて欲しい。