カバー画像

VREID『Welcome Farewell』:王道ブラックンロールが新しい境地を開くか。(Black Metal)

本作『Welcome Fawewell』は、スラッシュやクラシックロックに根ざしたリフとリズムによる、ロックとしての、商業的な意味でのキャッチ―さを持っている。そういう意味で、彼らがFacebookで自称しているようにブラックンロールと呼べるかもしれない。ただ、大部分のブラックンロールバンドがメタル界隈の中では飛び道具的な立ち位置にあるのに反して、本作はとても王道的だ。そしてその王道的普遍性こそが本作の魅力ではないだろうか。

2012年にノルウェーのオスローにある国立オペラ劇場でメタルバンドとしては初めての演奏を行っていること(*1)、前作『V』がノルウェーのグラミー賞Spellemannprisenの候補だったことを考えると(*2)、商業的にもある程度成立しているといえ、やはり普遍性がある音楽性なのだろう(とはいえノルウェーはグラミー賞にブラックメタル部門があるような国なうえ、同年SHININGやTAAKEも候補になっていることを考えるとそう強い裏づけにはならないか)

本作によく似た傾向の作品として、同年同月にDARKTHRONEが『The Underground Resistance』を発表をして批評家筋から好評を得ている(海外レビュー平均で80点ちょいくらいか)。「DARKTHRONEは純ブラだった3枚目まで」というのはよく聞く意見だが、一方で当該作も評価されているということは、こうしたブラックメタルとクラシックロック/メタル/パンクという組み合わせを受け入れる土壌はできているということだろう(あるいは単純に流行とも取れる。あとまあVENOMも考えると発生時からそういう芽はあったか)。とはいっても、ブラックメタル最初期に重要な役目を果たしたDARKTHRONEなので、このような音楽性になった現在は必然的に「もはやブラックメタルではないが」という前置きつきで紹介されてしまう。その点でやはり飛び道具といえる。

また、日本のブラックメタルバンドSIGHの『Hangman’s Hymn』もキャッチ―という意味では本作に近い。ただし初期から一風変わったブラックメタルをやってきた彼らだけに、当該作品もアヴァンギャルドなブラックメタルとして「キャッチ―」が発現したという側面が強い。管楽器+オペラ風メロディという劇場型の曲は非ブラックメタル的であり、やはり飛び道具だろう。当時「ブラックメタル的な勢いは感じられない」という内容のレビューもあったと記憶している。

現在ブラックメタルとはやや離れたところにいるものの、商業的キャッチ―さという意味ではCRADLE OF FILTHも比較対象になるだろうか。彼らはゴシックやシンフォニックなど、ある程度ブラックメタルと親和性の高い要素でもって普遍性を得ている。それは暗い音楽のなかでは王道的で、ジャンルとしては異なるがVREIDの本作に近いものがある。

商業的に成功している、というのはブラックメタルとしてどう評価されるか難しいところだ。ただ、CRADLE OF FILTHがブラックメタルを基盤にしながらもいろんな要素を吸収し、結果、ジャンル議論のマトになるような、いくつかのジャンルにまたがったような音楽スタイルを作りあげたことは、単純にバンドとして評価できる。

さて、VREIDのボーカリスト兼ギタリストのSture Dingsoyrはインタビューでこう述べている。

作品ごとに、スタイルもサウンドも、進化していってるとおもっています。As with all Vreid albums there has been an evolution in both style and sound. (*3)

サウンドのみならず、スタイルも発展させていくことを基本姿勢としている。同じスタイルを突き詰めていくバンドもよいが、こういういろんなジャンルを取り込みながらスタイルそのものを進化させていくバンドは、前述のCRADLE OF FILTHの例の通り、新しい境地を開いてくれる可能性を秘めているという点で非常に期待できるだろう。それが、ブラックメタル界では一部から忌避される普遍性、王道性にもつながっているとなればなおさら革新的だ。

ブラックメタルに留まらない彼らの意欲を示す例として、インドのダンサーRukmini Chatterjeeとの共演があげられる(*3)。インドのダンスミュージックとブラックメタルの共演は、熱狂を持って迎えられたとのことだ。VREIDの前身バンドのWINDIRは民族的要素が強かったし、今後インド音楽に影響を受ける可能性も大いにありうる。そうしたらかなりヘンテコでおもしろい作品になりそうだ。今後の進化にも注目していきたい。

あとこのバンド、ドラムにうまい人特有の揺れかたがあって良い。曲の方向性とも合っている。#1「The Ramble」のイントロなんかは、リフワークとあわせて、MASTODONを思わせるところがあっておもしろい。


*1 Metal As Religion「VREID Interview」- Mar. 8, 2013*2 ThorNews「Norwegian Grammy Awards Winners 2012」- Jan. 14, 2012*3 About.com「Vreid Interview A Conversation with Vocalist/Guitarist Sture Dingsoyr」- Mar. 4, 2013