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OCTOBER FALLS『Plague of a Coming Age』:秋深し、隣はギター弾く人ぞ。(Metal)

ミッコミコにしてやんよ!

本作の音楽性はその一言に集約されている(されてない)。本バンドは中心人物であるMikko Lehto氏のソロプロジェクトが発端なこともあってか、本作はMikko氏のギターメロを中心に構成されている。ジャリジャリと輪郭の薄いギターリフの音色はメロを決して邪魔しないし、ベースは時にテクニカルなプレイも見せるものの音量低めで低帯域の支えだし、ドラムも派手に主張したりしない。それぞれがギターソロプレイのための土壌作りに全力を尽くしているかのようだ。ギターが泣きまくる#1「At the Edge Of An Empty Horizon」で本作が始まっているのが、もう「おれ、弾きまくります」という宣言に思えてしまう。

彼らはよくプログレッシヴデスメタルの巨OPETHや暗い系プログレッシヴメタルのKATATONIAと比較されるが、上述の観点で見るとちょっと違う。むしろIngwieとかIMPELLITTERIとか、あのへんのギター偏重のネオクラシカル勢に近いものを感じる。それをプログレッシヴ(デス)メタル的音像でやってみましたという趣。

そしてそれはとても良い具合になっている。

プログレッシヴデスメタルは、デスメタルの攻撃力の高さを技巧性および叙情性と限りなく親和させたような音楽だ。本作ではその叙情性が泣き泣きのギタメロとして発現している。そしてそれが中心にすえられているとなれば、それはもう叙情ジョージョーなんてったって最高!ってなもんである。

ただし叙情に力が入りすぎているため、デスメタル的攻撃性は薄い。OPETHの名盤『Blackwater Park』はその辺を力強いグロウルなんかでカヴァーしていて、だからこそプログレッシヴデスメタルを確立したんだけども、本作はそういうのはない。

さらにいうとプログレッシヴ的技巧性もあまりない。OPETHやKATATONIAで頻出する凝った拍の取り方はあまり見られない。

そういう意味で本作は、OPETHやKATATONIAと類していると認知されてるのにプログレッシヴでもデスでもあんまりないという、ただの暗いメタルじゃん!なアレだった。

つっても、だからといってこの作品がダメっつーことではない。プログレッシヴデスメタル的にはそらつかみどころがないかもしれんが、OCTOBER FALLSの魅力はプログレッシヴデスメタル的なところにはない。あくまで叙情。こちとら秋味の憂鬱さをたんまり身に浴びたいわけであって、そこに強風とか天候の急変とか来られたら、むしろ困る。

インタビューで<なんで9月でも11月でもなく10月なわけ?>(*1)と聞いている猛者がいたが、NOVEMBER FALLSにしようという案もあったらしい。結局現在の名に落ち着いたというわけだが、8月の余韻残るSEPTEMBERでも、年末に心が向きだすNOVEMBERでもなく、秋ど真ん中のOCTOBERというのは情に浸りまくりの本作の音楽性にとてもしっくりくるなー。と思ったのだった。まっ、見事にかぶってるわけですけども……。

プログレッシヴデスメタル的な音でありながらプログレッシヴデスメタル的なところが魅力ではないとはなんぞや?プログレッシヴデス禅問答!というところではあるが、プログレッシヴデスメタル的暗さが好きで、かつ感傷も大好きなひとにはプログレッシヴオススメデス。

しっかし、この作品、AmazonだとCDが3000円越えでmp3は900円なのな……。すげえ格差。

*1 SUN & MOON Records「October Falls」- – Sep. 2008

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VREID『Welcome Farewell』:王道ブラックンロールが新しい境地を開くか。(Black Metal)

本作『Welcome Fawewell』は、スラッシュやクラシックロックに根ざしたリフとリズムによる、ロックとしての、商業的な意味でのキャッチ―さを持っている。そういう意味で、彼らがFacebookで自称しているようにブラックンロールと呼べるかもしれない。ただ、大部分のブラックンロールバンドがメタル界隈の中では飛び道具的な立ち位置にあるのに反して、本作はとても王道的だ。そしてその王道的普遍性こそが本作の魅力ではないだろうか。

2012年にノルウェーのオスローにある国立オペラ劇場でメタルバンドとしては初めての演奏を行っていること(*1)、前作『V』がノルウェーのグラミー賞Spellemannprisenの候補だったことを考えると(*2)、商業的にもある程度成立しているといえ、やはり普遍性がある音楽性なのだろう(とはいえノルウェーはグラミー賞にブラックメタル部門があるような国なうえ、同年SHININGやTAAKEも候補になっていることを考えるとそう強い裏づけにはならないか)

本作によく似た傾向の作品として、同年同月にDARKTHRONEが『The Underground Resistance』を発表をして批評家筋から好評を得ている(海外レビュー平均で80点ちょいくらいか)。「DARKTHRONEは純ブラだった3枚目まで」というのはよく聞く意見だが、一方で当該作も評価されているということは、こうしたブラックメタルとクラシックロック/メタル/パンクという組み合わせを受け入れる土壌はできているということだろう(あるいは単純に流行とも取れる。あとまあVENOMも考えると発生時からそういう芽はあったか)。とはいっても、ブラックメタル最初期に重要な役目を果たしたDARKTHRONEなので、このような音楽性になった現在は必然的に「もはやブラックメタルではないが」という前置きつきで紹介されてしまう。その点でやはり飛び道具といえる。

また、日本のブラックメタルバンドSIGHの『Hangman’s Hymn』もキャッチ―という意味では本作に近い。ただし初期から一風変わったブラックメタルをやってきた彼らだけに、当該作品もアヴァンギャルドなブラックメタルとして「キャッチ―」が発現したという側面が強い。管楽器+オペラ風メロディという劇場型の曲は非ブラックメタル的であり、やはり飛び道具だろう。当時「ブラックメタル的な勢いは感じられない」という内容のレビューもあったと記憶している。

現在ブラックメタルとはやや離れたところにいるものの、商業的キャッチ―さという意味ではCRADLE OF FILTHも比較対象になるだろうか。彼らはゴシックやシンフォニックなど、ある程度ブラックメタルと親和性の高い要素でもって普遍性を得ている。それは暗い音楽のなかでは王道的で、ジャンルとしては異なるがVREIDの本作に近いものがある。

商業的に成功している、というのはブラックメタルとしてどう評価されるか難しいところだ。ただ、CRADLE OF FILTHがブラックメタルを基盤にしながらもいろんな要素を吸収し、結果、ジャンル議論のマトになるような、いくつかのジャンルにまたがったような音楽スタイルを作りあげたことは、単純にバンドとして評価できる。

さて、VREIDのボーカリスト兼ギタリストのSture Dingsoyrはインタビューでこう述べている。

作品ごとに、スタイルもサウンドも、進化していってるとおもっています。As with all Vreid albums there has been an evolution in both style and sound. (*3)

サウンドのみならず、スタイルも発展させていくことを基本姿勢としている。同じスタイルを突き詰めていくバンドもよいが、こういういろんなジャンルを取り込みながらスタイルそのものを進化させていくバンドは、前述のCRADLE OF FILTHの例の通り、新しい境地を開いてくれる可能性を秘めているという点で非常に期待できるだろう。それが、ブラックメタル界では一部から忌避される普遍性、王道性にもつながっているとなればなおさら革新的だ。

ブラックメタルに留まらない彼らの意欲を示す例として、インドのダンサーRukmini Chatterjeeとの共演があげられる(*3)。インドのダンスミュージックとブラックメタルの共演は、熱狂を持って迎えられたとのことだ。VREIDの前身バンドのWINDIRは民族的要素が強かったし、今後インド音楽に影響を受ける可能性も大いにありうる。そうしたらかなりヘンテコでおもしろい作品になりそうだ。今後の進化にも注目していきたい。

あとこのバンド、ドラムにうまい人特有の揺れかたがあって良い。曲の方向性とも合っている。#1「The Ramble」のイントロなんかは、リフワークとあわせて、MASTODONを思わせるところがあっておもしろい。


*1 Metal As Religion「VREID Interview」- Mar. 8, 2013*2 ThorNews「Norwegian Grammy Awards Winners 2012」- Jan. 14, 2012*3 About.com「Vreid Interview A Conversation with Vocalist/Guitarist Sture Dingsoyr」- Mar. 4, 2013

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PORTAL『Vexovoid』:オウチでイケイ。(Death Metal)

ウゥゥゴボゴボボボグベボボボボボロロゴボォォベベロヴヴヴガバァジュッェェゴガゴボボォウァバババ

この音楽は、私の異世界の、言語にいたこ似ていまし、過剰で八弦ギタェも低音で露出もll\=\\トシャブツとは撒き散らですぬ?這いずる?ずるだんぬし?

最高すぎて取り乱しました。

ともかく街に出現したら速攻で自衛隊派遣されて駆除されるレベルの汚生物感出ててゲロい。うめき声とうごめき音に、弦楽器とドラムがそれぞれ対応。廃水吐瀉物みてぇな弦楽器も大概だが、ドラムてめーはなんだ。いくら手数を増やしても全くスピードやリズムが感じられねぇ。というのはやはり弦楽器が低帯域に片寄ってるうえにズルズル引きずっているせいで、タムとバスドラを巻き込んでウネウネするからなんですな。弦楽器とドラムの合奏ではなくて、ひとつのでっかい低音の塊がうごめくかんじになってる。そのうえリズム的には本来主役級のスネアの音量が小さいの。リフが引っ込み気味のときも、バスドラのドッドッドッドッドッ、っつうクソ単調な音が鳴るだけでグルーヴとか突進力とかない。心音ですよねソレ、っつー。全体としてのズブズブとしたエグい低音に加えて、そういう合奏感、バンド感のなさが異形の生物的雰囲気の原因だろう。

音楽的にはデスメタルやゴアグラインドが近いのかな。ただ、この不定形感はデスメタルいうよりもポストメタルやへヴィドローンに近いし、人間界の血なまぐささと結びつきが強いゴアグラインドには本作にある異形情緒は見られない。つうことで、なんかやっぱミョーな立ち位置にいらっしゃられます。ユーハベリベリユニークマンネ……フフフ……。

その異形感に関連しますけれども、このバンドは何やらクトゥルフバンドなどと言われておるようです。とはいっても、本人たちがよ、そのラブクラフトってーの、イヤがってんだよネ……。最初のころにちょっとアイデア借りただけらしーじゃんか。9割オリジナルなんですけどー。クトゥルフバンドとかいわれんのチョー心外なんですけどー。ボーカル談(*1)

それ脱ヴィジュアル系バンドのやつだ。

そんなことを思いながら歌詞を見てみると、え、これ英語なんすか?っつー難しい単語使ってるうえに断片的すぎてよくわからんでした。作品名はVex+void?とまー、難解かつ独自……。オリジナルなセカイカン……。

そういう「ボグアゴゴボグァアィ(ボクたちかなりすごいんす)」っつー態度を踏まえつつ、Facebookで自分たちのレビュー記事にリンク貼りまくってるところなんか見ると、なんか……音楽に反して小物感……チョットカワイイ……。

というわけで不定形異世界生物をオウチ感覚で愛でたいというそこのあなた!ぜひPORTALチャンをおすすめしておきます。床に置けばホラ!グチャグチャと何かをまき散らしながら徘徊してくれますよ。お掃除のためにルンバもあわせてどうぞ!(力技が過ぎるアフィリエイトへの誘導)

完全に余談だけど、この作品、MY BLOODY VALENTINE『m b v』に似てると勝手に思っております。低音の触れ方とか、その異世界感とか。特に#1「Kilter」と#1「she found now」。同じ幼体を、ヘドロで育てるとPORTALに、霞で育てるとMBVに、っつー。なりませんか?なりませんか……。

*1 SATANIC PANDEMONIUM「Portal: Interview with The Curator and Review of Vexovoid」- Feb. 28, 2013

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BEHEXEN『Nightside Emanations』:ベヘックセン!! ベヘーックセン!! (Black Metal)

ベヘックセン!!ベヘーックセン!!

失礼、いやなに私、BEHEXEN症でしてね、少々クシャミが……。おや、ご存じない?それではお聴きになるとよい。なに、大丈夫ですよ。

サタニストですよ。ボーカルがサタニストなんです。いや、それはサダマサシ。全然似ていないし、フォークです。サダマサシがサタニストだったら、そらお前を嫁にもらう前に言っておけよって話ですよ。いまはBEHEXENの話をしているんです。ベヘーックセン!! 失礼。ボーカルのHoath Torogはこう言ってます。<オレはサタニストとして生まれた>、<サタン-ルシファーの血統がうずくんだ……ガキのころからね>(*1)。……ソレ、ニホンデハ「チュウニビョウ」イイマス?ひとの真剣な生き様をそんなひとことで片付けちゃいけねえやぃ!

そういう確固たる思想を持っているだけあって、音もそれを表すかのような悪魔的雰囲気をかもしだしている。特筆すべきはボーカル。やけに残響が効いている。多用されるコーラスとあいまって、DEATHSPELL OMEGA以降とも言える「思想性」を作品全体にに付加している。#10「Kiss for Black Moterh」で聴ける厳かさは、その最たる例だろう。

ただ一方で、デスメタルを思わせる輪郭のはっきりした肉体的暴虐性もまた持ちあわせている(#3「Death’s Black Light」)。これはちょっと珍しい。一般的には思想性を重んじると精神的暴虐性が前に出て肉感は薄れるからだ。

Hoathはインタビューで<精神世界や神々は抽象的で、象徴主義以外では表現しにくい>(*1)と言っている。竜、光、円、蛇、ルシファー、ティアマット、神殿、死、母……なるほど、そういえば本作の曲名を見ても具体的に想起しやすいものが並んでいる。この象徴性が「バンド」としての肉感に結びついていると考えてもよいだろう。 思想を重んじる姿勢と、それを表現するにあたって象徴化という手段を取ったことが、BEHEXENに精神性と肉体性を混在させた要因ではないだろうか。

<あの「インナーサークル」が教会につけた「火」…あれ……初めて見た時… なんていうか……その…下品なんですが…フフ………… 勃起……しちゃいましてね…>(*1)(ホントは「interesting」なんで全然意味が違う)という、初期ブラックメタルへの慕情は持ちながらも、<ブラックメタルは日々進化しているよ>(*1)とさらなる地点を目指す心意志やよし。今後もクソマジメにサタニズムブラックメタルを追求して、BEHEXENという化身を肥大化させていってほしい。ベヘーックセン!!

*1 Metal Obscur「Entrevue avec Hoath Torog (Behexen)」- Dec. 10, 2012

LIGHTNING SWORDS OF DEATH『Baphometic Chaosium』:海外女性にも大人気……?(Black Metal)

「死の光剣」って……オメーRHAPSODY OF FIRE並じゃねえか……しかも頭文字取るとLSDだってぇ?メタル好きの冴えない中学生数人が集まって考える架空の「おれたちのメタルバンド」でもソッコーで却下されるぜソリャ……。

ひとまずどんな顔してんだよ、どんな顔でこんな恥ずかしいバンド名つけてんだよ、と調べてみたら、こんな顔でした。あの、「死の光剣」が最も似合わない風貌していらっしゃいませんこと……?超新塾感、というわけですか?

以下、ギタリストRoskva氏のステキ発言をご欄ください。(*1)

  • ワーグナーとバルトークに影響を受けてるね。
  • IMMORTALと演ったとき、こいつらスゲーとおもったね。
  • おれたちは異教徒だ!シーンなんて関係ない。おれたちは古代の力によって運命付けられ、焚きつけられた何かの一部なのさ。

そういうわけで期待しかないなかの幕開けです。#1「Baphometic Chaosium」。いきなりタイトルトラックっつー安直ぶりをぶっとばすかのようにマトモな低音アンビエントから開幕。オッ、やるじゃーん、とえらそうにフンゾリ返っていたらテクニカル系みたいなベースプレイがでてきて、ド、ド、ドヒャーッ!とそのまま後頭部を強打して人生がブラックメタル化してしまいました。南無惨。

基本骨格はデスブラックで、トレモロっぽくメロディを奏でながらブラストとツーバスで進撃していく類のやつ。よくあるよくある!ただ、見た目やバンド名のアレさとは裏腹に、曲や音は結構練られています。たとえば、デスブラックっていうとデスメタルのブルータルさやブラックメタルのメロさを軸に曲が展開していくバンドが多いんだけど、こやつらどっちでもないのね。もちろん#6「R’Lyeh Wuurm」を代表として、そういう要素の強い曲もあるにしろ、基本的にはミドルテンポでの重苦しさで聴かせる形態。その雰囲気を作っているひとつの重要な要素がドラム。このドラム、あんまり「速さ」がないんですわ。それはブラストでも裏ノリツービートでも、4つ打ちリズムのシンバルが前に出ているためですね。そこから出る体感的な遅さは、この作品のサタン指数を上げて良い方向に働いております。ドラム以外にも、ちょいちょい顔を出すガチアンビエントや、洗脳指数の高い語りがキマってます。

洗脳指数でいうと#3「Psychic Waters」がグンバツでした。延々と続く蝿の王様のうめき声みたいなトレモロは、聴き手の意識基盤を揺さぶるという意味で今作屈指のオカルトさを発揮しております。この曲聴くためだけでもアルバム買う価値あったってくらい個人的に激好みです。え、え、何だって?テメー!よく聞け!アルバムやシングルを買う、レンタルをする事によりそのcdに入ってる自分の知らない曲を聴いて”これいいなぁ”または”これはあんまり”って感じる事は重要だと思う、 そうしないとせっかく曲を歌った人達、作詞作曲をした人達とレコード会社の人達に失礼だともう!!もう!!

もっと音質悪くて「とりあえず疾走とトレモロよろしく!」みたいな偏差値の低いやつを期待してたんだけど、ちゃんと作りこまれててこれはこれで楽しめました。キラキラネームのせいで就職に苦しんでいる諸君、コレを聴いて勇気を出そう。そしてヤギの被り物をして集団面接に望み、「志望理由なんて関係ない。おれ“たち”は古代の力によって運命付けられ、焚きつけられた何かの一部なのさ」と周りの学生を巻きこんだ盛大な自爆を行ったらいいともう!

しっかし、なんで彼らはこんなサイトのインタビュー受けてるんでしょうか……どうしたって浮いている……「グラサンはダサいんで外してください」……。もう……。


*1 americanaftermath.net「Exclusive: Roskva (Lightning Swords of Death) Interview」- Jan, 5, 2011

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ROTTING CHRIST『Κατά τον Δαίμονα του Ἐαυτοὗ 』:精神と肉体、両方屈強。(Extreme Metal)

<宗教っていうのは腐敗していくものだとおもっているよ>(*1)とのたまうギリシャのメタルバンドROTTING CHRISTのフロントマンSakis Tolis。その持論を体現したかのように、彼らの新作『Κατ? τον Δα?μονα εαυτο?』は朽ちていくような禍々しさに満ちあふれています。

「メタルはリフとギターソロ」というのはメタル界隈の一部で根強い信条で、彼らにしても前作『Aealo』はギタープレイ中心の作風でした。今作に見られる呪術メタルとでも言うような独特の雰囲気は当時から醸していたものの、ギター中心という点ではいわゆる正統派メタルの文脈にありました。けれども肝心のリフに多様性がなく、ミュートかけてテレテレテレテレテレ……が大半を占める単調さ。そのため前作は諸手を挙げて絶賛できない非常に歯がゆい作品でした。

一方今作。同様のリフが多用されてはいるものの、その役割が違っています。前に出て主張する主役ではなく、曲の骨格を作る土台です。

じゃあ代わりに何が主役になったのかというと、それが禍々しい「雰囲気」です。この雰囲気を作るためにリフが鳴り、ボーカルがガナり、テンポが変わり、コーラスが入る。<今作は、曲だけでなくプロダクションに関しても前作と違っていて(中略)これまでで一番暗くて神秘的な作品でしょうね>(*2)というSakisの発言からも、雰囲気を重視している姿勢が伺えます。以前からそうした独特の雰囲気が魅力だったバンドだけに、これは非常に素敵なことです。

さて、雰囲気を主役級にまで高めるためには曲の構成が重要になってきますが、これがとても素晴らしい。たとえば、今作は囃子のような特徴的なフレーズがよく出てきます。その躍動感が、前述のミュートリフの無機質な速度感と対比となって高い熱量を生み出しています。また、さまざまなフレーズとコーラスを中心とした多彩なアレンジにより、巧みに場面を切り替えて単調さを払拭しています。特に#8「Русалка (Rusalka)」でのリフの押し引き。疾走感を損なわずに緩急を演出するこの曲には思わず下半身を露出してしまいました。

曲の構成の次はプロダクションに注目してみましょう。今回のミキシングとマスタリングは近年の売れっ子Jens Bogrenが担当しています。OPETHやSOILWORKでその実力を見せつけた彼ですが、PARADISE LOSTなどのゴシック勢も手掛けているとはいえ、どちらかというと引き締まった音像が得意だとおもっていたので、こういう余韻のある音に関わったというのは少々驚きです。もっともプロデューサーはSakis自身なので、彼が決めたバンドの方向性をしっかりと見極めて目的の音作りに貢献したのだと考えられるでしょう。とすると今回の起用は大成功だったといえます。

ここまで雰囲気雰囲気言って来ました。ポストメタルに片足突っ込んだ#9「Ahura Mazd?-A?ra Mainiuu」などを聴くと、今作が雰囲気に重きを置いているというのは間違いではないと思います。一方で、正統派メタル的な肉感も存分に発揮してもいます。その理由は、やはりダイナミックなリズムのリフであり、雄弁なギターソロであります。圧倒的な呪術力を漂わせながらも、最終的にはやはり「たたかう」が主体のメタル戦士である。それは他の雰囲気系メタルバンドには見られない特徴でしょう。

というわけで最高なので皆さんもぜひ。私はペンダント付きボックスセットを買う一歩手前まで行きましたです、ハイ。

*1 Metal Crypt「Rotting Christ Interview」- Jan, 20, 20132
*2 Metal Paths「Interview: Rotting Christ (Sakis)」- Jan. 11, 2013