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「レコード人気、急回復」の裏にひそむ自己矛盾。

生産量が前年の1.5倍に レコード人気、急回復のワケ
デジタル世代には新鮮な響き

(2012年8月26日付、日本経済新聞)

 レコードが売れているらしい。というわけで調べてみた。10万枚が20万枚になっただけじゃん。2005年は30万枚つくられてたじゃん。2008年も20万枚つくられてたじゃん。誤差みたいなもんじゃん。対全体の生産量比でも売上比でも1%に満たない事実で、よく「レコード人気急回復」なんていえたものだ(*1)。

 それに、もしこの先レコードが売れてきたとしても喜んではいけないのです。

 音楽再生メディアを考えるうえで重要な点として、

 1. 音質や耐久性、扱いやすさなどの利便性
 2. 所有欲を満たすコレクション性

の二つが挙げられるだろう。この点について、まずは現在の主要メディアであるCDと、mp3などのファイル形式、そしてレコードを比較していく。

 近年台頭してきた(*2)ファイル形式は、CDと比較して圧倒的に1の点で優れる。数千曲単位で持ち運びができ、慣れていれば管理も簡単だ。
 一方で2はかなり限定的。「モノ」がないから所有欲にかかわるもろもろを満たしにくいというのが最大の欠点。自慢は○○曲という数字くらいでしかできないし。また、記事にあるように、音楽を聴くプロセスが簡素化されているっていう面で不満を抱いているひともおおい。CDなりレコードなりをショップで買って、包装開いて、再生機器にセットして、ライナーノーツを読みながらじっくり聴く、というアレ。これもやはりデータではなかなか実現しずらいだろう。

 さてレコードはどうか。CDに主要メディアの座をうばわれたという歴史的事実からも、1としてCDに劣っていることは明らかだろう。でかいし。劣化するし。音質についても、現状だとCDより優れているとは言えない。レコード愛好家がよく口にする「CDは○Hz以上の音を切っている。たとえ非可聴領域でも音があるのとないのでは全体の響きや豊かさが変わってくる」という言い分はオカルトにすぎないし、レコードが果たしてその「○Hz以上」の音を正確に再現できているのかどうかも疑問。ノイズのりやすいし。再生環境の影響すげえ受けそうだし。とはいえ、これは今後の技術次第といったところだろう。
 2については非常に優れている。1では欠点だった大きさとモロさがそのまま利点になっている。年代もののレコードは、アンティーク家具のような味わいを持っている。オーディオ的にはクセがあり賛否のあるレコード特有のあの音も、こうした側面から見ると優れているといえるだろう。あとレコードで音楽を聴くひとって少ないから、その希少性が通っぽさになる。自慢できる。

 以上をふまえて、この先レコードが売れる場合の流れをまとめてみよう。

 1. 音楽ファイルすげえ便利でもうCDいらん
 2. 便利だけど自慢できない
 3. かといってCDに戻るのも…
 4. レコードに目をつける

 こんなところだろう。つまりレコードは音楽ファイルの欠点を補う形で売れだすにすぎない。だとすれば音楽をレコードで聴く機会っていうのは、レコードの売上上昇に対してみるとそう増えない可能性が高い。CD買っても結局パソコンに取り込んでファイル形式で聴くひとが大勢いる現状、「所有欲」が一番の魅力であるレコードも同様になってしまうというわけだ。もともとのレコード愛好家は別として、最近の売上上昇に貢献しているようなひとたちは、たまに思い出したように「じぶんにとってたいせつなおんがく」を部屋で流してみたりする程度になるんじゃないのかな。

 さらにいえばレコードの「所有欲」って、その希少性が結構な部分を占めてるんだよね。もしレコードがもっと売れて普及したとすると、当然その希少性はさがってくる。「所有欲」も減衰する。つまり売れれば売れるほど自身の魅力が失われていくっていう自己矛盾を孕んでいる。

 そういうことなので、レコードが売れだしてもうかつに喜んではいけない。

 CDに負けた時点で、レコードはもう音楽再生メディアとしての価値はなくなった。懐古と所有欲と他者への差別化と、そういう純粋な音楽以外の部分をもってしか存在しえない。本当に音楽を、音楽だけを愛するのならば、レコードなんて捨てなければならない。
 
 もちろん私は音楽の音楽以外の部分も愛していますのでレコードの存在意義は十分に!ええそらあもう十分に!

*1 よくみたら8cm CDが前年比で31倍になってるぞ。何があった!?
*2 2011年の売上は対2005年度比で約2.1倍、音楽メディア内での比率は8%から20%に上昇。あと、CD買っても結局パソコンに取り込んでファイル形式で聴いてるひとは大勢いるので売上以上にファイル形式は普及してるはず。

参考文献:
一般社団法人日本レコード協会「日本のレコード産業2012」
同「日本のレコード産業2006」

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