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heaven in her arms『幻月』―黒い激情の裏にある確かな意志力。

ヘブンインハーアームズ、彼女だけの天国。前アルバム『黒斑の侵蝕』 は、バンド名とタイトルからむんむんとニオイ立つチュウニリキ妄想臭をあますことなく体現していた。空間に虚しく響く硬い音を武器に、ソレっぽい単語を並べた歌詞を、時にガチョウの断末魔が如く絶叫し、時にポエトリーリーディングする。その綿密に構築されたセカイは、黒い歴史を刻むのに充分過ぎるほどの臭作だった。

さて、満を時してのフルアルバム2作目。今回はどんなボクとセカイを聴かせてくれるのかな!?

…驚いた。これは、真っ当にアトモスフェリックハードコアの大作じゃねぇか。

全1曲と考えても差し支えない、聴き手おいてけぼりの劇的で長大な展開。その社会的に間違った方向への気合いの入りっぷりはCORRUPTED『El Mundo Frio』と比肩するだろう。そしてその濃密なセカイを表現しきれるほどの、サウンドプロダクションの圧倒的改善。音ひとつひとつの説得力が前作とはまるでちがう。音圧が!音圧が!ガチョウ声は相変わらずだけども、エフェクトで全体にうまく馴染ませ前作のようなキワモノ感が消滅。なおかつ歌詞の聞き取りが不可能なアレンジが随所に施されたことにより、ボーカルから「言葉」が排された。結果ガチョウ声は激情として、語りは鬱屈として本能に訴えてくる。

隙間の多いミニマルな部分が大半を占めており瞬発力にかけるうえ、わかりやすいキワモノ要素がなくなったので本作は前作とは違った意味でとっつきにくくなっている。しかしそのとっつきにくさというのはいわゆる「深さ」に直結する類のソレ。セカイは世界に。イタイタしさは痛々しさに。真っ黒い憂鬱が内面に染み込んでゆく。

この音源が存在レコードから出されたってのも驚きだなあ。envy系激情ハードコアバンドが、元ネタと同じレーベルに入ったらそりゃあ順当に追随すると思うでしょうよ。柔いポストロックへ傾倒すると思うでしょうよ。そいつが違う方向に開花したかんねー。空間表現はしっかり参考にしつつもあくまで黒い激情。CONVERGEやenvyなどの先人の辿った軌跡に安易に流されず自身のスタイルを模索し突き詰めた意志力が彼らの一番の武器つってもよいんじゃないでしょうか。快作。